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消防隊の経験値をUPさせる「移動式模擬家屋訓練施設」
消防隊員は、より実災害に近い環境での訓練が必要である。訓練環境を整備する目的として、近年導入が進んでいる移動式模擬家屋訓練施設。アイデア次第で多様な想定訓練を行うことが可能な施設を大公開する。
写真・文◎木本晃彦
Jレスキュー2021年11月号掲載記事
実践的訓練で隊員の経験値を上げる
近年、建物の高気密高断熱化により、消防活動中の職員の受傷事故が増加傾向にある。その反面、火災件数は減少傾向にあることから、若手消防職員が実際に炎上する建物内部へ進入し、消火活動を行う機会は多いとはいえない。しかし、現場に安全な場所など存在せず、経験を積んでこそ、実災害現場で的確な判断と技術が発揮できる。
こうした理由を踏まえて、2011年(平成23年)4月に立ち上げられた「座間市消防庁舎建設検討委員会」では、平成25年に基本構想を策定、平成26年に基本計画、基本設計、平成27年度に実施設計、平成28年に契約締結し工事着工が進められていた新庁舎建設と同時に、訓練施設にあっても、構想から始まり計画、設計に至るまで現場活動や訓練の発想を加えることで、より実践的な経験を積める施設の完成を目指した。
今まで旧庁舎での訓練施設は、単管パイプを組み上げて、主に救助隊が訓練で使用することが多く、建物火災を想定とした訓練で使用するには向いていなかった。また、施設の安全面を維持するにも保守点検などで苦労していた。こうした改善策を新庁舎建設にも取り入れ、高・低層訓練塔棟建設と同時に、ユニットハウス型の移動式模擬家屋訓練施設の導入を検討した。当時、ユニット型の移動式模擬家屋訓練施設の導入は、消防学校や一部の消防本部(局)などが導入をしていたが、県内でも中規模な消防本部が導入するには、その実績も含め一筋縄ではいかなかった。
新庁舎建設にあたっては、多額の費用がかかるほか、その機能を強化するには、それなりの理由も必要となる。その中で「身の丈にあった消防施設」としていた。座間市消防庁舎建設検討委員会から指示を踏まえ、移動式模擬家屋訓練施設こそが、災害現場で活動する職員や団員、さらには防災意識が高揚している市民の方々が使用する施設であると再認識し、2018年(平成30年)2月13日より施設の運用を開始した。
新たに整備されたユニットハウス型移動式模擬訓練施設は、2階建てルーフバルコニー付き1棟の一般住宅を模した作りになっている。2階建て一般住宅の活動こそが、「消防活動」の根源である。さらに倉庫、作業所、事務所など様々な災害想定訓練を行える施設となっている。また移動用の車輪が設置してあることにより、訓練場内の移動が可能である。こうした利点から、低層訓練施設と隣接させた狭隘地域での災害想定など、組み合わせ次第で活用方法は無限に広がる。
歴代の諸先輩方の経験から生み出される発想も加わることで、訓練のマンネリ化なども含め、さらなる可能性を秘めている。模擬家屋は真似できたとしても、訓練スタイルは真似できない。まさにこれこそ「座間スタイル」の要素の一つなのだ。
旧庁舎での課題であった保守点検などの維持管理は改善され、軽量鉄骨ユニット構造、外壁にはアルミ合金、内壁にはアルミ複合板を用い、床はメッキ縞板加工と耐久性を考慮した設計としたことで、長期使用を目的としている。施設の内外からは放水が可能となっており、施設床面には水抜き用の穴を設けてあることにより迅速な排水も可能となっている。
訓練で経験を積まなければ、本番で実力を発揮できないという不安感や、なによりも隊員の事故防止につながる施設を目指した。
「身の丈にあった消防施設」これこそが、「座間スタイル」であるとともに、この移動式模擬家屋訓練施設が「仏作って魂入れず」とならないよう一致団結し、魂を入れるがごとく、より多くの訓練で使用することが重要であり、消防職団員の士気高揚につながるものと考える。











