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築地市場火災 ―火災に勝つ消火戦術―
(1)築地市場は日本最大の鉄骨造
今回は築地場外市場の火災の概要について、地元の京橋消防署から出場した大隊長に話を聞くことができ、大変感謝している。本稿では市場とひとくくりにしているが、そもそも「市場」とは何なのか。元市場長であったAさんが私の友人なので話を聞いた。
築地のような中央卸売市場とは、卸売市場のうち卸売市場法第3章の規定に基づいて国が認可し、地方公共団体が開設するものである。平成29年時点で全国40都道府県に64市場あり、うち東京には11市場存在する。築地市場は面積約23ヘクタール、取引数量は約91万6866トンで、その規模からして日本、いや世界最大級の卸売市場である。
築地市場が築地に開設されたのは昭和10年。部分改修は毎年のように行われているが、建物構造自体はほぼその当時のままである。日本における既存の線材を組み合わせた鉄骨造で、それが円弧状に連続し壁にさえぎられることがなく、一つにつながっているダイナミックな空間である。かつてはここに東京市場駅があり、円弧状に貨物線が引き込まれ、それに沿ったカーヴ状のプラットフォームに直接貨車が横付けし、荷役ができるようになっていた。今では市場としての機能に加え観光客誘致の働きかけもあり、一般の見学客や外国人、購買客が多数訪れている。
今回火災となったのは築地市場に隣接した商店街である築地場外市場である。市場敷地内(場内)はすべて東京都の管轄の卸・仲卸・関連業者と呼ばれる業者販売を前提とした店であるが、場外市場は通常の商店街と同じで、一般客や観光客を相手にした店が多い。しかし市場内外の店は、通常の商店街とは異なる点がある。
・ 場内は午前中でほとんどの店が閉店する。場外も16時頃に閉店。
・ 休市日の場内はほとんどの店が営業しない。
・ 年末年始とお盆を除き原則的に3連休はない。
・ 市場内の売り場は定期的に店舗移動を行い、場所による不公平をなくす方法を取っていた。(4年に1度の抽選でトラブルも多発していたため現在は廃止)
(2)市場における火災の危険性
築地市場では、大きいものだけで平成元年、平成9年、平成27年、28年と毎年のように火災が発生している。このうち平成9年12月21日に発生した火災は、市場内水産部1棟のうち2232㎡焼損し大きな火災となったもので、出火原因は放火の疑いとされている。不特定多数の方々が出入りし観光客も多いうえ、大空間に小店舗が区割りされている。そのうえ発泡スチロールや段ボールが通路まであふれ、火災になれば大火の危険性は大だと言える。なぜ危険か次に示してみる。
・ 市場は歴史と経済が一緒に発展してきた場所で、おのずから老朽化し場内の店舗はぎっしりと物が積み込まれ、発泡スチロールや段ボールが積み上げられている。
・ 営業時間帯は多数の卸人や関係者がいるが、午後はほとんどの店が閉店し閑散としている。場外はその後も営業し、多数の観光客が押し寄せている。
・ 場内はもともと鉄道の線路が施設されており、物が占拠して消防車両の進入は困難な場所が存在する。
・ 場外市場も木造で密集した場所が多く残っており、このような建物は防火上の区画は無いに等しく、火災になると横方向への延焼が早く、防ぎょが困難である。
・ 大田市場(東京都大田区)のような耐火建物でも、内部が冷蔵倉庫のような場合は断熱材が燃えて爆発的な燃焼になる場合がある。
・ 地方での市場は老朽化に加え、ネット通販や巨大流通システムが普及し、空き店舗が増加し防火上の問題が出ているところもある。
・ 現在の築地市場周辺は、地域の自主的な防災組織は充実しており、消防団や消防署との連携も素晴らしいものとなっている。
場外市場の特徴
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計画に基づいた素晴らしい防ぎょ