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深夜の歌舞伎町に指揮隊が出場! 大久保第1小隊と連携で危険排除
「————、危険排除! 大久保1、新宿指揮、特命出場! 新宿区歌舞伎町二丁目…、漏水による漏電危険!」
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2019年7月号掲載記事
飲食店オーナーから店内で漏水との通報
当務隊員の多くが仮眠室へと消え、署内が静まり返った午前1時22分、出場指令の拡声が鳴る。
消防司令・髙橋宣行大隊長と指揮隊5名は1階車庫へと降りる。消防副士長・岡村啓史通信担当は車庫裏で地図を見て、指令番地を今一度確認、髙橋大隊長とそれ以外の4名の指揮隊員は防火衣を着装する。
危険排除事案では、現場で起こり得ることをすべて想定し、必要に応じて防火衣を着装する。この事案の場合、漏水が原因となって漏電し、それにより出火ということになれば、事案は火災へと変わる。それらへの備えが防火衣着装だ。
髙橋大隊長と指揮隊員全員が指揮隊車に乗車すると、ただちに出場だ。夜の街を赤色警光灯の灯りが照らし、サイレンが響き、指揮隊車は本署から3キロメートルほど離れた歌舞伎町二丁目へと急行する。
深夜営業中の飲食店オーナーからの119番通報の内容は、飲食店が入るビルの上階の一室で水が漏れる音が聴こえ、このままでは漏電につながる恐れがあるということだった。緊急走行する指揮隊車の車内。髙橋大隊長はどう対処すべきか思いを巡らせる。指揮隊の要でもある消防司令補・佐藤友雄指揮担当とも話し合う。
「このまま漏電等による火災危険がなく、漏水だけが続く場合、どうすべきか。我々は水道や漏水の専門家ではない。かといって消防として、『できません』で済ますわけにもいかない。どこかに落としどころを見つけ、対処することが必要だ」
漏電危険があるのかないのか、大隊長命令で電力会社を要請
そこに先着隊の大久保第1小隊から現着ならびに活動開始の無線が入る。現時点で漏電や火災の事実は確認されない。やはり漏水だけの可能性が高い。髙橋大隊長は指揮隊員全員に自らの考えを周知する。
「まず漏水による漏電の危険性がないか、東京電力に確認を要請することを第一とする」
ここですかさず消防副士長・深井孝宏伝令が警防本部に無線で要請する。
「新宿指揮1から東京消防! 新宿区歌舞伎町二丁目…、危険排除現場出場途上。大隊長、電気要請!」
髙橋大隊長は続ける。
「漏水だけで終わる場合、通報者が納得するプロセスが必要だ。そのためには管理会社を調査し、そこに連絡して対処を任せるしかないだろう」
その間にも消防司令補・浅田裕子情報担当は、当該ビルの構造、階層、用途などの概要についてわかったことを髙橋大隊長へと伝えている。
そうこうするうち、指揮隊車は現場に接近。髙橋大隊長は運転する岡村通信担当に伝える。
「いつもどおり、火災発生時の対応を考慮し、現場の少し手前に部署しよう」
危険排除現場で指揮隊車両を直近部署すると、万が一火災が発生した際、活動障害になってしまう。また、歓楽街のど真んなかの人混みの中にあえて部署する理由があるかないかを判断する必要性がある。髙橋大隊長いわく、
「このような場合は現場の少し手前の道路に部署し、現場まで歩いていくのがセオリーだ」
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現着、そして危険排除