消防車両の日常点検のポイント<br> ポンプ車のメンテナンス

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消防車両の日常点検のポイント
ポンプ車のメンテナンス

消防車両の使い方は独特のため、一般車両とは異なり、消耗する部品、故障が起こりやすい箇所に特徴が見られる。そこで、機関員のために消防車両の点検ポイント、メンテナンス方法を東京消防庁装備工場のプロがアドバイス。

写真◎伊藤久巳
Jレスキュー2018年3月号掲載記事

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長距離走行しないトラック特有の不具合

消防車両の使い方は、自動車メーカーが想定している一般的なトラックの使い方とは異なる。具体的には急加速・急減速を繰り返したり、長距離を走行しないことだが、それによって独特の故障が起こる。その一例が、排気ガスのススの詰まりだ。一般的なトラックは高速道路等での長距離輸送が想定されており、その際に排気装置を500~600℃まで上昇させ、その熱で排気ガスのススを燃焼させて浄化するという自動浄化装置が備わっている。しかし、その装置はエンジンの完全暖機等の条件がそろわないと正常に作動せず、走行距離が短いポンプ車ではその条件がそろう前にエンジンを停止してしまうことになる。このため自動浄化装置が作動せず、浄化フィルターが詰まりやすいという問題が発生する。これを放置しておくと、いざという時に車両が使用できないという状況に陥るので、定期的なメンテナンスが欠かせない。

一方、ポンプ装置の整備でこれだけは行っておいた方がよい、というのがボールコックの給油だ。ポンプの吐水口はボールコックの周囲にパッキンが施されており、給油が不足するとその部分が固くなったり削れたりして漏気や水漏れが発生する。こうした不具合は材料さえあればパーツの交換が可能で、1時間ぐらいで修理できる部分でもある。

ポンプ車の使用後の毎回の水抜き(水槽内および配管内の清掃)は非常に重要である。水槽の中に泥水等が残っていると錆が発生し、その錆がバルブに噛み込むとバルブ自体がだめになってしまう。ゴミを噛んだりしてバルブに不具合が発生すると、水を吸い上げられないという真空漏れが発生する。そのため、毎回のドレンによる水抜き、清掃等が必須なのである。

このほか、タイヤの空気圧のチェックも重要で、エアーバルブのエア漏れは見落としやすい。気づかないうちに空気が漏れていると、走行中にバーストする危険性が高まる。

タイヤの点検ポイント
東京消防庁 消防車 整備
タイヤは、残っている溝の深さはもちろんだが、タイヤが製造されてからの年数も同時に確認して、必要があれば交換する。
東京消防庁 消防車 整備
タイヤの空気はエアーバルブから入れ、空気圧を測定する。エアバルブのゴムの座りが悪いと気づかないうちに空気が漏れてバーストする危険があるので点検する。
東京消防庁 消防車 整備
後輪など動力を伝達するタイヤでは、ホイール以外にも中央部のハブにも締め付け部があり、ホイールナットと同様に緩みを点検しなければならない。緩んでいるのは論外だが、緩いのが心配で締めすぎるのもいけない。締めすぎると金属が伸び、それを繰り返すことにより金属疲労等を起こして折れてしまう場合がある。1mの棒の先に10kgをのせれば約100N・mの力で締まるという仕組みを理解し、感覚を養い、トルクレンチがなくてもこれ以上締めたらよくないというラインを覚えておきたい。
東京消防庁 消防車 整備
東京消防庁 消防車 整備
タイヤのボルト、ナットなどの緩みを点検ハンマーでチェックする。きちんと締まっていると打刻音がカンカンと響き、緩んでいると濁った、コツコツと響かない音が出る。
キャブチルトを行う
東京消防庁 消防車 整備
エンジンなどの点検ではキャブチルトを実施する。キャブチルトには電動式と手動式があり、車種によって異なる。キャブチルトする際の注意点はまず、小型ポンプ車は積載はしごがキャブ上部にかかっている場合があるので、はしごが降りているかしっかり確認をすること。次に車内の積載物。積載資器材を片づけておかないと、キャブの上昇により落下して破損する恐れがあるからだ。また整備場所の屋根が低いとあたってしまうので注意が必要だ。キャブ上昇後は必ず安全バーの設定をすること。
東京消防庁 消防車 整備
ポンプ装置はエンジン側からPTOのポンプシャフトが繋がり、作動する。配管は、水関係は青色、空気関係が白色と、ひと目でわかるよう色分けされている。
東京消防庁 消防車 整備
エンジン制御は多くがコンピューター化されたほか、排気ガス浄化装置なども追加されている。エンジンが暖気される等の条件が揃わなければ、排気ガス浄化装置が作動しないため、浄化フィルターが詰まる原因となる。
ポンプの点検
東京消防庁 消防車 整備
シャーシの点検、整備を終えてから、ポンプ装置の点検、整備へと移行する。ポンプ装置がきちんと作動するか、各放水口や中継口のレバーがスムーズに動くかなどを点検していく。整備工場入工時にボールコックが開放されていて、残水処理が終わっていれば、その車両は消防署できちんと整備されている証拠だ。シャーシとポンプ装置の点検、整備は2〜3日かけ細部まで実施する。
ボールコックのメンテナンス
東京消防庁 消防車 整備
放水口のボールコックを見る。レバーを回転させると内部のボールコックが回転し、水の流量を変化させることができる。
東京消防庁 消防車 整備
放水口から内部のボールコックに給油する。
東京消防庁 消防車 整備
給油されたボールコック。これによって動きが格段にスムーズになっているはずだ。
東京消防庁 消防車 整備
エンジンカッター回転部のガードにゴミや金属の削りかすが溜まった状態。このまま使用すると、これらが周囲に飛び散り非常に危険な状態となる。
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エンジンカッター回転部のガードにごみや金属の削りかすが溜まりがちだが、写真はそれらが綺麗に掃除された状態。
酒井 努

酒井 努

二級自動車整備士/ポンプ車等の整備担当(取材当時)

消防車両の使い方は独特のため、一般車両とは異なり、消耗する部品、故障が起こりやすい箇所に特徴が見られる。そこで、機関員のために消防車両の点検ポイント、メンテナンス方法を東京消防庁装備工場のプロがアドバイス。
写真◎伊藤久巳 Jレスキュー2018年3月号掲載記事

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