
Special
本邦初の指揮隊「伝令」マニュアル【後編】
東京消防庁狛江消防署が作成した指南書

なにゆえ“第二の大隊長”か?狛江消防署 指揮隊 指揮担当 消防司令補 河野優作
私の原点は、伝令になってすぐの右も左もわからなかった頃、先輩隊員から「指揮隊は『無線運用』と『伝令の喋り』で火を消す、その気概が伝令なのだ。ポンプ隊だけでは火は消えない、指揮隊だって部隊運用で火と闘っているんだ」と教わったことにある。指揮隊には筒先も水もないが、火を消しているというのだ。
正直、伝令になった当初の私は1日も早く辞めたいと思っていた。その私に1年後、第二の大隊長となる当番がやってきた。指揮隊のメンバーが私を除いてすべて変わり、新メンバーで組む初めての火災が2〜3当務目にやってきた。第二出場で現場はバタついたが、なぜか私はとても落着いており、少し離れたところで災害を俯瞰しているような気持ちになれた。災害の経過や必要な無線、指揮板の記載など、不思議なほど部隊運用で足りないところに目が届き、『大隊長、そろそろ○○どうですか?』と言えば、大隊長は『そうだな』と返し、大きな火災であったが、スマートでしっかりとした部隊運用ができた。これが指揮隊の面白さなのかと実感した。
伝令は出場途上から大隊長とほぼ行動を共にする。出場途上の指揮隊車内では指令番地、災害の概要、出場隊などを報告し、大隊長から活動方針や途上命令などを聞き取り、車両の無線装置で警防本部へと通告する。指揮隊車の無線装置による警防本部とのやり取りは通信担当の役割だが、通信担当は機関員を兼ねているため出場途上は伝令が通信を担当する。
現着すると伝令は大隊長とともに現場を現認し、現場の状況、たとえば建物での災害ならその建物の構造、階層、用途などとともに、大隊長による活動方針や命令などを車両にいる通信担当に無線で送る。伝令の理想は、災害ごとに今ここでやるべきことを大隊長に進言していくことだ。すべてを思慮して命令を下さなければならない大隊長に対し、タイミングを計って適切な助言をする。これが『第二の大隊長』と呼ばれるゆえんだ。

非常に充実した任務である指揮隊「伝令」 消防副士長 西野一弘
ポンプ隊員として5年以上の経験を積み、自信もついてきていたところだったが、伝令に任命されてからは、災害を眺める視野、知識等が圧倒的に足りないことを思い知らされた。ついつい目先の現場活動に集中してしまい、大隊長から言われる「現場を一歩引いた視線で見ること」の大切さを痛感している。
災害と闘う消防という仕事においては、部隊統制、部隊運用が重要である。どの災害にもそれぞれ異なる様々な危険要素や問題点があり、その細部にわたるまで気を配らなければならない指揮隊は本当に勉強になる。伝令という重要ポジションを任されていることに毎当務、緊張の連続だが、非常に充実している。

求められる広い能力、多彩なアイデアを生む感性狛江消防署一部大隊長 消防司令 根岸浩之
伝令は大隊長の下命事項を即座に理解し、通信担当に迅速・的確に伝えなければならない。そのためには基本的な警防および予防知識はもちろんのこと、特異な事象についても対応できるよう日々知識の醸成に努めなければならない。向上心と努力に裏付けされた宇宙のように広い能力、そして虹色に多彩なアイデアが臨機応変に飛び出す感性が大切なのである。
さらに、機転の利いた対応力や気遣い、任務に対する責任感があると、活動している隊員はもちろん都民に対してもきめ細やかな対応が可能となる。
指揮隊には、各隊がそれぞれの任務を全うできるよう災害全体を把握し、部隊を効果的・効率的に運用する任務がある。指揮隊が十分に機能していなければ、助けを必要とする都民を守れないばかりか、全身全霊をかけて活動している消防隊員を危険に晒す可能性もある。
どのような災害であっても「心は熱くとも、頭は冷静に」。状況を俯瞰し、最善の判断と決定をするよう心がけている。