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14署36隊が活躍する東京消防庁の「英語対応救急隊」
訪日外国人観光客が急増している昨今(2018年の訪日外国人数は3119万人)、救急救命の現場においても、外国語の知識や外国人とのコミュニケーション能力が求められるようになってきているのが現状だ。2014年から、いち早く「英語対応救急隊」の運用を開始した東京消防庁の取り組みを紹介する。
Jレスキュー2019年5月号掲載記事
8消防署13隊でスタートした英語対応救急隊
東京消防庁は2014年(平成26年)4月、東京の国際競争力向上とさらなる成長を目的に東京都が「アジアヘッドクォーター特区」において推進する外国企業誘致や、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催などを控え、都内の外国人が安心して救急車を利用できるよう、英語対応能力を備えた救急隊員が乗務する「英語対応救急隊」の運用を開始した。
この英語対応救急隊は、基本的な英会話能力や救急活動の際に必要となる一般医療英語の知識、さらに海外の異なる生活習慣や文化に対応した接遇のできる救急隊員が1名以上配置されている。
8消防署13隊でスタートした英語対応救急隊だが、平成28年4月には早くも拡充が図られ、現在の編成はアジアヘッドクォーター特区を管轄するエリアを中心に14消防署36隊となっている。また隊員の育成については発隊に先立つ平成25年から実施されているが、来年度までの7年計画では、合計280名の英語対応救急隊員を、26消防署70隊で運用する方針だ(取材当時)。東京消防庁 救急部 救急管理課計画係で、隊員の育成に携わる駒走氏に聞いた。

※[ ]内の隊が、発隊当初の13隊
「研修生は挙手制により庁内から広く募集しています。救急資格を持ち、TOEIC等のスコアから一定レベルの英語力があると判断される者が対象ですが、自己研鑽ができる方、職務意欲が旺盛な方を求めています。研修生になると3週間の研修で基本的な英会話から専門的な救急用語まで習得していただきますが、配置後の英語対応能力の維持・向上には自己学習が不可欠だからです。また、英会話能力だけではなくコミュニケーション能力も必要です。例えばムスリムの方は、男性が女性に触れるのは基本的にはマナー違反です。諸外国の方であっても安心して救急車を利用できるように、相手の生活習慣等に応じた接遇ができるよう、知識や技能の習得が必要であると考えています」(駒走)
英語対応救急隊の活動の目標は、まずは来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックを無事に成功させること。さらには諸外国の方が安心して滞在できる環境を整備することだ。東京消防庁では英語対応救急隊の需要がさらに増えることを見越し、今後どのように拡充、展開していくかを積極的に検討している。


全国の消防で普及する「救急ボイストラ」
東京消防庁では、平成29年4月に総務省消防庁消防研究センターと国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が共同開発し、全国の消防本部へ提供している無料のアプリ「救急ボイストラ」を、英語対応救急隊等15隊に導入している。
救急ボイストラは、救急の現場において外国人傷病者との会話に手間取り、現場滞在時間が全体平均と比べて3〜6分延伸している現状を改善したいという想いから開発された。NICTが開発したスマートフォン向け多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」をベースに医療用語を追加。また、救急現場で使用頻度が高い会話内容を「定型文」として登録しており、外国語による音声と画面の文字により円滑なコミュニケーションが可能となっている(取材当時の定型文対応言語は英語や中国語、韓国語、マレー語など15種類)。
救急ボイストラの全国の消防本部への提供開始は平成29年4月からだが、同年12月までの期間に早くも1187件の使用実績があった。平成30年11月現在、全国728消防本部のうち340消防本部が使用を開始している(約46.7%)。
