Special
火点に直近部署して人・水・装備を集中する
「DATE na 消火戦術」―仙台市消防局―
仙台市消防局が令和元年度より本格運用を開始した新消火戦術「DATE na 消火戦術」は、到着順位により編成された中隊が、「人・水・装備」という消防の三要素を火災現場にいち早く集中配備し、効率的な消火を行うというもの。その極意をうかがった。
写真・イラスト提供◎仙台市消防局
Jレスキュー2020年3月号掲載記事
伊達家の用兵術 「騎馬鉄砲隊」
仙台市消防局の新たな基本消火戦術は、名付けて「DATE na 消火戦術」。
これはもちろん、東北地方に覇を唱えた戦国大名で、仙台藩の祖である伊達政宗公にちなんだネーミングであるが、かといって単に郷土の英雄の名を冠したに留まらず、その消火戦術のコンセプトを体現した名称となっている。
「DATE na 消火戦術」は、伊達家が用いた用兵術のひとつであり、大坂夏の陣における戦いぶりで知られる「騎馬鉄砲隊」をそのモチーフにしている。騎馬鉄砲隊とは、通常の騎馬隊の前備えとして配備された、鉄砲を備えた騎馬武者からなる隊を指す。敵軍との物理的な接触に先立ち騎馬鉄砲隊が馬上で鉄砲を斉射することで、いち早く戦端を開き、次なる騎馬隊の機動力、突進力を活用し、圧倒および制圧につなげるというものだ。
「人・馬・武器」を最前線に重点配備して一気にブレイクスルーを狙うこの用兵術にならい、「DATE na 消火戦術」も配備車両の機動力を活かし、火災現場にいち早く「人・水・装備」を集中させ、効果的かつ効率的な消火活動を迅速に展開するという積極果敢な戦術である。
同消防局によると、もとより「地域を守ろう」という意識がことさら強固な消防人のこと、伊達政宗公にあやかった新消火戦術の策定は、隊員のモチベーションの向上にも大いに寄与しているということだ。
一線車は1.5トン水を積載
10トン水の大型水槽車も
「DATE na 消火戦術」の主眼は、①動態管理により臨機応変に編成した中隊を、②火点に直近部署・集中部署する――というものだ。
仙台市消防局においては、消火隊の基本的な活動単位が、3小隊ひと組(12名)をもって構成される中隊を標準としている。この場合の中隊とは、到着順位予測により柔軟に編成された、一個小隊を計3隊編成した「消火中隊」だ。
この到着順位予測を可能にしたのが、2018年(平成30年)8月に供用を開始したばかりの新指令システム。ナビ・システムによる車両の位置情報を基に小隊の動態管理を行うことで、あらかじめ設定された出場区にとらわれることなく、災害現場に直近する車両をまず出場させ迅速に活動を開始する態勢が整っている。通常火災の第一出場では、消火隊は6隊が出場するので、1~3着隊からなる第一消火中隊と、4~6着隊からなる第二消火中隊の計2中隊が消火活動を展開することになる。なお同消防局において各消防署・出張所では、一線車両として基本的に1.5トンの水を積載したタンク車を運用している。
この消火中隊は、通常の消火中隊に加えて同消防局に置かれた6消防署すべてに1台ずつが配備されている10トン水を積載した大型水槽車が配属された「ビッグタンク(BT)中隊」、あるいは道路狭隘地などで消火中隊のうち1隊以上が二線車である600リットルタンク車で出場する「スモールタンク(ST)中隊」となることもある。とはいえこのSTにはCAFSが搭載されており、少ない水でも効果的な消火活動が可能だ。
消火中隊基本防御図
- 1着隊は直近部署し、タンク水から50mm1線にて放水する。
- 2着隊は1着隊の20m以内に部署し、タンク水から65mm1本で中継送水する。
また後着隊の状況によっては1着隊から水利に向かい逆延長する。 - 3着隊は水利部署し、1着隊に中継送水する。
3着隊から1着隊への中継体系が完了した時点で2着隊は中継送水を停止する。
現場に突っ込んで部署する1着隊と2着隊
さて、火災現場に現着した最先着隊は、水利部署することなく迷わず火点に直近部署し、自らのタンク水でファーストアタックをかける。もとより消火活動において、水利部署は大原則であるが、「DATE na 消火戦術」においてはまず、1着隊、2着隊は現場に直近部署・集中部署して資機材と水を集約するのだ。中隊編成完了後の放水口数は、1着隊からの最大4口となる。もっとも現場直近に消火栓がある場合は、1着隊であっても水利部署するのはもちろんだ。
仙台市消防局の管轄エリアを見ると、市街地においてはだいたい5km半径には消防署あるいはその出張所が配置されている。したがって1着隊の現着後、おおむね3分以内には2着隊、3着隊と集結するので、後着隊はタンク水リレー方式で消火水の水切れを防止する措置をとる。また3着隊は水利部署したうえで1着隊に中継する。1着隊への中継ラインを確立させた2着隊は機関員を含めてその後はフリーハンドとなり、現場の活動隊への増援が可能となる。また従来は遠くに部署してしまうと前線への資機材の搬送に苦戦する場合もあったが、直近に突っ込んで集中部署することで、活動隊員の負担も軽減された。またホースの延長する本数が少なく済むなど、活動の効率化も図れている。
このように火災現場に直近部署することで火点に車両を集約して「人・水・装備」を現場に送り込み、集中的かつ効率的に消火するというのが「DATE na 消火戦術」である。そしてこの戦術によるもっとも理想的な展開は、屋外からふかん注水するのではなく屋内進入して燃焼実体に直接放水し、最先着車が持つ1.5トンのタンク水でいち早く消火してしまうことである。
なお、市街地から離れた山岳地や水利が乏しい地域などの特定地域については「戦術外地域」となり、直近部署・集中部署方式の代わりに、水利部署した隊が直近部署した隊に中継送水して防御する従来通りの消火戦術「ペア作戦」で活動している。
次のページ:
新指令システムが可能にした「DATE na 消火戦術」