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大量採用時代の新人教育法
酒田消防の「プリセプター制度」
酒田地区広域行政組合消防本部
Jレスキュー2017年3月号掲載記事
役職、階級は取材当時のもの
5年間で65名を新規採用
酒田地区広域行政組合消防本部(以下、酒田消防)は、山形県の北西部に位置し、酒田市、庄内町、遊佐町の1市2町で構成される一部事務組合である。1本部1署9分署、職員数217名体制であるが、団塊世代の諸先輩が定年退職し、平成24年度からの5年間で65名の職員が新規採用された。急激に職場が若返りし、新人職員教育が大きな課題となっている。酒田消防に限らず全国の消防が抱えている課題でもある。
ある消防士からの提言
平成27年度の署内消防職員意見発表会において、消防署本署勤務の池田健人消防士により、新人の教育方法として新たな提言が行われた。新人1名につき、1名の先輩職員を「技術指導員」として任命し、マンツーマンで指導するというものだ。
この参考にしたのが看護師の新人教育に導入されている「プリセプター制度」で、新人の看護師に若手の先輩看護師が1年間ついて、マンツーマンの指導・アドバイスを行うというものだ。池田消防士はこう提言した。
「新米消防士に技術指導を行う先輩隊員を技術指導員として配置すれば、技術、知識のアドバイスができるのはもちろんのこと、それ以上に新人の精神的な支えになれるところが大きい。災害現場では常に危険がつきまとい、極度のストレスがかかる。それが経験の少ない新人の消防吏員にとって計りきれないショックになることも十分に考えられる。そんなときに精神的な支えとなり、相談に乗ってくれる先輩がいるだけでも大きなメリットになる」
技術指導員は技術や知識だけでなく、災害現場での心構えや自身の経験談も含めて新人に伝承する。その新人は数年後に技術指導員となって、次の世代に自分の知識や経験を伝承していく。継続していけば技術が途絶えることなく、さらには新しい技術、知識が追加され、組織の力はより精錬されていくと訴えた。
消防版プリセプター制度
池田消防士の意見発表を受け、土井寿信消防長は平成28年度から新人職員の教育に「プリセプター制度」を取り入れることを決めた。
平成28年度の新規採用者18名は、4月から9月まで山形県消防学校初任科で学ぶ。その間に、消防長の指示を受けた本間悦郎消防署消防第一主幹が教育計画を立案し、新人職員の初任科卒業と同時に新たな教育体制をスタートさせた。
技術指導員=プリセプターには、採用5年目から10年目の若手の消防職員を指名し、1名の新人に対し2名の技術指導員を指名。さらにその技術指導員を監督する監督指導員も指名した。期間は初任教育修了後、所属に戻ってくる10月から翌年3月31日までの半年間とした。
実際に導入してみて
こうしてプリセプター制度の初年度がスタートした。この制度を担当する本間消防第一主幹は「初めての取り組みなので、最初は技術指導員の教え方によって新人一人ひとりのレベルにばらつきが出てくるのでないかなど、様々な懸念があった」というが、実際に実施してみると、新人の配置部署における訓練、研修等への取り組み姿勢が積極的になるなど変化が見られ、2年目、3年目の職員が新人職員にいい意味で刺激を受けているという。
「技術指導員の指名を受けた職員は教える立場として、自分自身が理解し習熟していなければ後輩の指導ができないことから、なお一層のレベルアップも見込まれる。大量退職期の今、知識、技術のスムーズな伝承が行われる一つの方策が見えたと思う。ただ、業務多忙の中、技術指導員となる先輩消防士にかかる負担が大きくならないよう考えていかなければならないだろう。プリセプター制度の導入で、全職員のまとまりが出てきたように感じている。今後も工夫を重ねてよりよい制度にバージョンアップしていきたい」
本間消防第一主幹はこのようにも述べた。酒田消防のプリセプター制度はまだ始まったばかりだが、その効果ははっきり感じているようだ。
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プリセプター制度を提案するきっかけになった
池田消防士の経験