ロープレスキューの種をまく GRIMPDAY2022想定解説(その2)

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ロープレスキューの種をまく GRIMPDAY2022想定解説(その2)

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Day1 ワリビ・アミューズメントパーク 第4想定:Vampire
GRIMPDAY2022想定解説(その2)
想定

吊り下げ式のジェットコースターがコース途中の最上部で停止したため、コースター内の要救助者1名を指定の位置まで救出する想定。要救助者は意識があり、ハーネスは着装しているという状況で担架の使用は必須ではない。

要救助者へのアクセス(接触)は事前設定の懸垂ロープを使用する。

真下への救出は不可能で、横方向に5m程度離れた指定地点に救出する。救出地点の付近にはアンカー(支点)はなく、直上にあるコースターのレールをアンカーとして使用可能という指定があり、ここへも懸垂ロープが事前設定されている。

要救助者を救出後、隊員も資機材も全て地上に設置したら競技終了となるF5(Finish5)想定。

GRIMPDAY2022想定解説(その2)
想定の図。
GRIMPDAY2022想定解説(その2)
地上約30m地点にいる要救助者に向かって登はんする隊員。
活動解説

それぞれに分かれて活動する想定であったため、想定付与後に綿密なブリーフィングを行い、クロスホール(ツーロープ)による救出法を選択した。

要救助者直下と救出ポイントは高さ2.5m、幅1mの垣根で遮られておりコミュニケーションも困難で、コースターの基部の途中にある梁の上側を跨いで救出する必要もあったため、地上でロープを受け渡すことは不可能であり、上部に先行して進入した隊員から救出側へとロープを受け渡すという作戦をとった。

先行して要救助者のいるコースターに到着した隊員は、要救助者に対して声かけを継続しつつ要救助者を降ろすための救出システムをコースターのレールに構築した。

続いてさらにもう1名が登はんし、上部から救出ポイント側へと救出ロープ端末を投下。救出側引き込みロープと結合し、ツーロープの形式に整え再度要救助者の位置へとロープ端末を引き上げた。救出ポイント上部(引き込み側)ではリガーの1名が登はんし、引き込みシステムのアンカーを構築した。その後、コースターの座席から要救助者を離脱させ、アテンダーと要救助者の2名を梁近くまで降下。そこから引き込み側ロープを引き救出ポイント直上へと横移動させ、そこから地上まで降ろした。その後、すべての資機材を上部から離脱させて全員が地上に接地した段階で想定終了となった。活動時間は活動指示を含めて43分だった。

GRIMPDAY2022想定解説(その2)
コースターに残された要救助者を救出。
活動のポイント

地上にはアンカーがなく、救出システムを作成するすべての作業をロープにぶら下がり行わなければならないという負荷のある想定であった。

隊員全員に求められるロープアクセス能力、そして足場のない状況での冷静かつ的確な活動という、消防ではこれまであまり経験することのないような状況での活動であったが、地上に常に条件の良いアンカーがあるとは限らない状況下においても、ロープアクセスを活用することでアンカー構築の選択肢が広がるということを感じられるものであった。

また、地上から上を眺めただけでは現場の全体状況の把握が困難な中で、隊員もそれぞれの離れた位置で活動することとなるため、隊員間のコミュニケーションやリーダーへの情報集約なども困難であった。

救出方法については、両サイドの高低差が大きく、救出地点側が低い位置となっており、一見するとクロスホール(ツーロープ)は選択肢にない状況にも見える。しかし、高低差が大きいため横へ振ることが容易であると判断し、結果として救出側は倍力システムを作成せずに横方向へ引くことができた。こうした戦術の判断もポイントであったと思う。

GRIMPDAY2022想定解説(その2)
GRIMPDAY2022想定解説(その2)
コントローラー&オブザーバーからのフィードバック

迅速で統制の取れた活動であった。救助者が少し低い位置にいる状況で要救助者を座席から出したため、その際に要救助者が落ちるようになっていた。要救助者に対してのより安心感のある配慮が必要であった。コミュニケーションの取りにくいロケーションの中でもリーダーの指示がしっかりとなされており、それに対する隊員の対応も的確で、チームとしての総合力が発揮されていた。

GRIMPDAY2022想定解説(その2)
GRIMPDAY2022想定解説(その2)
要救助者と共に降下開始。レスキュアと要救助者はそれぞれアンカープレートに2系統で接続。競技会では担架を使用する場合が多いが、担架を使用しない場合の手技についても事前に検討しておく必要がある。
GRIMPDAY2022想定解説(その2)
救出ポイントの側に引き込む。この時点ではタグラインシステムに近い状態であるが、最終的にはクロスホール(ツーロープ)となる。変則的な状況においても的確な救助法の選定が必要となる。
世界大会GRIMPDAY2022の想定と解説②
文◎GRIMP JAPAN Jレスキュー2023年3月号掲載記事