ロープレスキューの種をまく <br>第1回「ギアチェック」

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ロープレスキューの種をまく
第1回「ギアチェック」

現場力を鍛えるロープレスキュー競技会の「ギアチェック」

文◎林田章宏(GRIMP JAPAN)
Jレスキュー2022年9月号掲載記事

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新連載によせて

私たちは海外のロープレスキュー大会を通じて、多くのことを学び、成長することができました。そうした経験を通して、ロープレスキューをどのように捉え、受け入れ、日本のロープレスキューを成長させていくための方向性も知ることができました。その経験を、GRIMP JAPANとして日本に取り入れたことで、日本国内においてロープレスキューの新たな理解と取り組みが広がっています。

GRIMP JAPANは海外大会の経験を日本国内において共有し、広げていくために、新たなスタイルも取り入れながら成長しています。国際標準のロープを使用した救助技術は国内においてもその知識、技術を習得できる環境は整いつつありますが、ここでは海外で行われているロープレスキュー大会がどういったものなのかを紹介していきたいと思います。

今後の連載では、過去の大会で実施した想定なども紹介していく予定ですが、今回は、活動以外での学ぶことの多かったポイントとして、競技前に行われている、ギアチェック(装備検査)について紹介していきたいと思います。

ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
香港のチーム。点検前に装備を並べている。 
国際大会のスタートは 「ギアチェック」から

海外で開催されているロープレスキュー大会では、使用する装備は各チームが選定し持ち込みます。

大会要項などに記載されている資機材についての内容は、主に以下の3点です。

①活動の規模を判断するためのロープ量の目安
②持ち込んだ装備は大会中、全てを自分たちで搬送しなければならない
③使用する資機材は国際的な規格に適合したものでなければならない

ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
中国のチーム。ひとつひとつチェックしていく。
①ロープ量の目安

例えばベルギーでは「100mロープを6本以上」とか、「幅80mのハイラインに対応できる装備」といったように、実施する活動の規模から装備を検討する判断材料となるような記載があります。ちなみに台湾ではロープは合計で500m以上と書かれていました。

私たちは、これらの情報を参考に、この規模の活動に対応できるようなロープの量を検討し、それに必要な資機材を選定し持ち込みます。例えば、幅80mのハイライン救出をどういったハイラインシステムで行うのかを考えれば、必要な装備が見えてきます。

2016年の台湾大会「Ch'iao」のギアチェック
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
ギアチェックタイム。オレンジのヘルメットの人がチェック係。
②持ち込んだ資機材は自分たちで運ぶ

持ち込んだ資機材は全て自分たちで搬送することとされています。

資機材が少なければ機動力が上がり、移動の負担は減りますが、救出できない活動があるかもしれません。相反する2つのポイントから最適な装備量を検討していきます。

ギアチェックとは直接関係ありませんが、装備の選定では、量だけでなく、資機材の振り分けやパッキングも重要になってきます。同じ装備量であっても、搬送しやすいように振り分けられ、うまくパッキングされていれば、機動力は大きく変わってきます。ギアチェックの際に、他のチームの持ち込んでいる装備を見ることは、量や内容だけでなく、搬送しやすいようにパッキングされているかどうかという点もとても参考になるものです。

機動力を確保しながら、必要十分な資機材を選定することから始めなければなりません。

この①と②は、現場においても必要なポイントであると思います。

自分たちの管内の状況、過去の災害、今後起こりうる災害等々を検討し、どのぐらいのボリュームの装備が必要であるかを検討することができます。例えば、「うちの消防本部では幅100mハイラインに対応できる装備を基準としています」とか、「高さ50mの引き上げ救助に対応できる装備を基準としています」といった基準があれば、自ずと装備の量が決まってくるのです。

ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
プーリーの中の状態までひとつひとつ細かく確認される。
③国際的な規格に適合した資機材

世界には様々な規格がありますが、海外の大会では特定の規格のみに限定しているわけではありません。代表的なもので言えばアメリカの規格:NFPA、ヨーロッパの規格EN、CE、UIAA。その他にもロシアの規格:EACなどがありますが、そのいずれかに適合している資機材であれば使用可能です。

ただし、海外では産業規格と救助規格は別にあり、これらは救助装備の規格でありますので、例えばアメリカのANSIのような産業規格のものは使用できません。(NFPAとANSIの両方の規格を取得していれば使用可能です。)

日本のJIS(日本産業規格)は、このANSIに相当するものになりますので、大会では使用できません。日本では、消防ポンプや消防ホースなどには検定規格がありますが、救助資機材についての規格が存在しないため、国内で使用している資機材は海外の大会で使用することはできないのです。

特定の規格に限定しているわけではありませんので、今後日本にも救助資機材の規格が整備された場合は、使用できる可能性があるかもしれません。

このような点をポイントに資機材を選定し、個人装備、チーム装備のリストが出来上がります。

装備選定のポイントは、2022年7月号の特集でもあったように、個人装備を選定し、チーム装備を選定する順番で検討していくことが有効だと思います。

まずは、基本的なロープ高所作業が行える個人装備を整え、チームレスキューにも使える個人装備を考慮したチーム装備を検討していくことで、無駄のない実戦的な装備選定になると思います。

ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
プーリーのホイールの部分に傷があるため使用不可となりました。
どう搬送するか

選定ができたら、海外に輸送するために1つ1つの重量を計測し、担架のような大きなサイズのものは事前に輸送の可否を確認し、スーツケースに入れられる重量に振り分けて海外に輸送するようになります。ですので、海外大会の場合は、受託手荷物の許容重量を比較して航空券を検討することも重要になります。そして、大会前にそれらの装備のチェックが主催者により行われます。

各チームは装備を全て見やすいように並べます。スリングなどにカバーをしているものは中の状態がわかるように取り外さなければなりません。それを担当スタッフが厳重にチェックします。

チェックポイントは、主に資機材の状態ですが、例えばヘルメットにたくさんのステッカーを貼っていたりすると傷の状態を隠していると判断され使用できないとされる場合もあります。私たちが過去にチェックされた点としては、①プーリーのホイール部分に傷がありロープを損傷させる可能性がある、②スリングの繊維の一部が切れている、といったものでしたが、その他にも、既述のとおり国内で使用しているカラビナは国際的な救助資機材の規格がないため使用不可とされたという例がありました。

このギアチェックで使用不可とされた資機材は、いったん大会事務局に没収され、大会終了後に返却されます。

2017年のベルギー大会「GRIMPDAY」
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
日本チームの装備を並べて、ギアチェックを受ける。国際大会初挑戦で、ギアではじかれたくなかったのでほぼ新品装備で臨み、「金持ちか!?」とイジられた(笑)。
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
フランスチームの装備。
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
いろんな国の人が各チームの装備を見ることができる。
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
資機材メーカーの担当者が点検していく。
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
見慣れない資機材を見ることもできます。
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スペインチーム。
ロープレスキューの種をまく 第1回「ギアチェック」
フランスチーム。チェックの終わった装備は活動できるようにパッキングされていく。

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