首里城火災で奮闘した指揮隊<br>―那覇市消防局―

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首里城火災で奮闘した指揮隊
―那覇市消防局―

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最悪の事態が脳裏をよぎる…
指揮隊としてまず、「隊員の安全管理を第一に」

編集部■指揮隊の活動で特筆すべき点は
指揮隊■火災が急速かつ多面的に延焼拡大したことで、筒先配備が間に合わず、延焼阻止ラインがジリジリと押し下げられた。また、輻射熱も強く、体力的に厳しい状況が数時間続いた。そこで、延焼阻止を主眼としながらも、活動する部隊には「絶対に事故を起こさないよう安全管理を徹底しろ」と下命した。
長時間化する活動を支えるためには、適切な交代要員や近隣市町村の応援部隊の増強が不可欠だ。また安定した水量・水圧を維持するため、適時、伝令を派遣するなどして、効率的な送水管理に努めた。
また当局では、通常時の指揮体制は3名制とし、指揮支援隊に救急隊や後続ポンプ隊を指定しているが、今回のように圧倒的な消防力劣勢の状況の現場においては、ポンプ隊の戦力を割くわけにはいかないうえ、救急隊の装備では安全管理上の不安がある。非常招集をかけた指揮支援隊が到着するまでの間、どのように指揮戦力を保持増強するかが今後の課題として挙げられる。

編集部■応援部隊との通信および連携運用についてはどうか
指揮隊■刻々と変化する情勢に追われるなか、無線の混線や不感等もあり応援部隊との意思疎通がなかなか取れず、応援隊の皆様には大変なご苦労をかけてしまった。
指令センター間を中継しての交信や、現場指揮本部から容易に伝令等を送れる距離での応援活動を展開してもらうように下命するなどして、応援部隊の精神的な負担(慣れない土地での活動や、災害の進行状況未把握下での活動等)の軽減を図る工夫が必要であると感じた。また、署活動系携帯無線機の不足など、依然としてハード面の課題も見られた。

編集部■活動をふりかえって、特によかった点は
指揮隊■周辺住宅街への飛び火による建物火災を抑止できたことだ。
強風に煽られ、大空を覆う火の粉に住民も大きな不安であっただろうと思う。消防職団員による飛び火火災阻止活動のほか、赤バイ隊の運用や防災行政無線などあらゆる手段を活用して火災広報したことで、住民が自衛手段として自ら飛び火警戒したことが住宅街への延焼防止に繋がった大きな要因と考えている。
また、軽い熱中症と思われる症状で活動隊員1名が救急搬送されたものの、全体として大きな事故もなく活動を終えられたことは、各部隊が活動中における危険予知をしっかりと把握し、臨機な対応で局面を切り抜け、集中力を最後まで切らさず活動した功績が大きかったものと思っている。

首里城に放水する様子。
時刻が9時を回り、やっと消防力優勢に。
異常な状態の現場を落ち着かせるには、早急に指揮支援体制を整える必要あり

編集部■今回の火災を受けて、今後の指揮隊の活動は
指揮隊■これまで同様、安全管理を第一に消防戦術を組み立てることには何ら変わりない。
今回のような一般的な火災と異なる、「異常事態」ともいえる特殊な火災(災害)では、早期に応援体制を樹立しなければならない。また異常な状態にある現場を落ち着かせるためにも、早急に指揮支援体制を整える必要がある。
特に那覇市の場合でいえば、他類似都市と比較して管轄面積が狭く、出動部隊のほぼ半数が同時期に現着して活動を開始するケースが多い。現着してから戦術を組み立てるのでは後手に回ってしまうため、災害規模に関わらず、途上段階から攻める指揮、すなわち先手々々の部隊配置や積極的な途上命令を実施することの重要性を身に沁みて感じたところであり、今後は、当局に相応しい指揮体制の確立を目指して検証を進めていく予定だ。

編集部■今回の活動をあらためてふりかえると
指揮隊■火災初期から火災規模が急速に拡大し、刻々と状況が変化するなか、高度な情報処理能力と安全管理を含めた現場対応力が求められた。
現場到着時、赤々と燃え盛る首里城を目前にして、なかなか事態が呑み込めず、最悪の事態に唖然としたことも事実だ。
このように「修羅場」と化した現場だったが、懸命に活動する隊員の姿に励まされ、この悪夢を現実のものとして素直に受け止めることで、指揮隊も徐々に冷静さを取り戻すことができた。
活動中は、「何を優先すべきか」、そして「何を断念すべきか」という苦渋の決断の連続だった。特殊な構造の城郭内での活動は隊員の体力を予想以上に消耗させ、また一気に火面が広がったことで部隊が分断され、有機的な活動ができなかった場面も多々あった。方面ごとに指揮を執る各隊長には、大きな負担であったであろうと推測する。
琉球王朝文化の象徴である首里城を焼失したことへの影響は計り知れず、多くの県民が涙を流し、虚脱感や喪失感に包まれていたが、私たち消防は、その暇が全くないほど、火災後の原因調査や事務諸々においても膨大な時間を費やすことになった。行政トップへの説明、押し寄せる電話対応と報道対応、国会議員、県議会議員、市議会議員への対応、火災の原因と今後の見通しなどは、その時点における情報をすばやく取りまとめなければならず、時間との闘いでもあった。
指揮隊は、火災現場における直接指揮だけにとどまらず、事後の事務の進め方をも的確に助言し、疲弊している隊員の気持ちを落ち着かせ、忙殺される事務作業に翻弄されることなく、いかに次の災害へと立ち向かう体制を早急に整えるかということが重要であると深く認識させられた。
隊員それぞれが、困難な事態を乗り越えるために必要なことは、チームワークとお互いを信じ合う心だと思う。そして今回の災害に立ち向かった当局の隊員は、そこに辿り着くまでの気配りや気遣いの重要性を共に感じてくれたものと確信している。
このような経験を糧としてわれわれは、管轄内にある重要施設(建物等)の警防調査や訓練、戦術検討会の徹底を図り、次なる火災に向けた準備を進めたいと思っている。

焼け落ちた首里城北殿
無残に焼け落ちた北殿。鎮火後の15時15分撮影。
首里城鎮火後の大龍柱
正殿正面両脇の大龍柱は焼損を免れた。
首里城の延焼順
首里城火災で奮闘した指揮隊
首里城火災で奮闘した指揮隊の皆さま。那覇市消防局では3名の隊員からなる指揮隊を1隊、中央消防署に常設している。
写真提供◎那覇市消防局 Jレスキュー2020年11月号掲載記事

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