海上保安庁が開発した「安全・迅速・確実」な水上バイク等曳航器材

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海上保安庁が開発した「安全・迅速・確実」な水上バイク等曳航器材

海上保安庁は、「安全・迅速・確実」をコンセプトに水上バイク等曳航器材を開発した。

Jレスキュー2021年5月号掲載記事

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自走困難となった水上バイクを巡視船等で曳航する際、通常は水上バイクの船首部のバウアイと呼ばれる環状部にロープを結索している。ところが救助にあたる巡視船等と水上バイクでは高低差があるため、巡視船等から身を乗り出した作業は非常に困難で、海上保安官が海中に入っての結索作業を余儀なくされることもある。応急的にハンドルにロープをかけて引くこともあるが、バランスを崩して転覆しやすい。ところがこのたび開発された曳航器材を使えば、水に入らずとも簡単に取り付けが可能となった。

発案した第三管区海上保安本部 救難課の伊藤裕樹計画係長(所属と役職は取材当時)によると、従来は一点に力がかかるため波やうねりを受けて不安定になることもあったが、ネットで水上バイクを包み込む方式としたため力が分散され、より安定した曳航が可能という。水上バイクへの取り付けも簡単で、曳航可能となるまで4分程度と救助にかかる所要時間が大幅に短縮された。

第三管区海上保安本部では令和2年度、すでに合計27基の曳航器材を配備済みで、今後は全国展開される予定。すでに近隣の消防本部等から視察が相次ぐなど他機関も注目している。

発案者の想いが開発に携わった人々を繋いだように、そして今後は救助する船舶と要救助船を繋ぐように――そんな想いが込められ、この曳航器材は「Tsunagi繋」と命名された。

海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
発案者の伊藤裕樹計画係長。
「巡視艇で、エンジントラブルにみまわれた水上バイクの救助事案に対応。私ともう1名で曳航救助したが、荒天下で作業が難航した。以前からこのような器材がないかと思っており、この事案後の平成30年10月に開発を提案した」
これらの器材を作成した加藤船用品工業株式会社の加藤社長によると、曳索とネットは目立つ色にこだわった。製作はすべて手作業となるとのこと。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
開発コンセプトは3つ
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
実際の曳航の様子。波やうねりがあっても安定する。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
ミニボートに装着した状態。伊藤係長によると昨年、第三管区内では、船舶免許不要で操船できるミニボート(ボート長3m未満で出力2馬力以下の船外機を組み合わせたボート)などの海難事故が多数発生しており、その主要因はエンジントラブルや燃料欠乏だという。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
支点を取る場所のないミニボートなどへは、器材携行バッグの肩掛けベルトを使って支点を作成、ここに曳航器材を取り付ける。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
1/まず器材携行バッグ上部のカラビナを支点となるスターンアイにかける(1回目の「かける」)。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
2/器材携行バッグのポケットから跳ね上がり防止ベルトを取り出し、船体の前からくぐらせてかける(2回目の「かける」)。ハンドルより前は足場がないのでこのようにベルトをくぐらせてかけていく。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
3/器材携行バッグ両側面から曳索を引き出す。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
4/引き出した曳索を、跳ね上がり防止ベルトの左右のループに通す。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
5/器材携行バッグを開いてネットを展張し、船尾部分にかける(3回目の「かける」)。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
6/ネット左右の大カラビナを左右の曳索に結着する。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
7/均等に力がかかるようにネットを調整する。
海上保安庁が開発した「Tsunagi繋」
8/最後に救助する船舶からの救助用の曳航索にスイベル付き重量フックをかけて曳航準備が完了する(4回目の「かける」)。
海上保安庁は、「安全・迅速・確実」をコンセプトに水上バイク等曳航器材を開発した。
Jレスキュー2021年5月号掲載記事

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