進化する「姫消式」消火戦術【後編】

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進化する「姫消式」消火戦術【後編】

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消防司令補 松田悟志

消防司令補 松田悟志姫路市消防局 警防課 警防救助第一担当

取り組みの目的を見失わないこと

現在は、本部で姫消式消火システムの資機材整備や研修を担当しています。

このシステムの導入により、初動時の資機材選定、任務分担が軽減されることで活動の余裕を生み、効率的な活動や安全管理につながることを確信しています。

研修では、ホース延長等の「手技」の習得のみならず、運用する「目的」を理解してもらえるように心がけています。それは、私達がこれまでも「目的」を理解せずに、目先の「手技」のみにとらわれたことで、沢山の失敗を経験してきたからです。このシステムの「目的」は、「適切な準備をすることで現場活動をどれだけ効率化するか」ということです。ホース設定など、事前準備は若干手間と時間がかかりますが、これが重要です。小手先の手技だけでは現場でボロが出ます。それを理解し、手技を身に着けてくださいと伝え、訓練手法についても紹介しています。

また、姫消式消火システムは、ヨンマル(40)戦術でしか運用できないものではありません。全国でも我々と同じように、「出動時に役割分担や資機材選定が的確にできない」、「マンション火災で延長に失敗した」等の悔しい思いをした方の話をよく聞きます。ヨンマルでもゴマルでも併用している消防本部でも、活動ミスをなくし、やり方を効率化するポイントは、「いかに筒先の直近に分岐を配備できるか」にかかっていると思います。それだけで活動要領が固まり、高層ビル火災や木造密集地火災でも考え方がシンプルになるためです。そういう意味において、活動を整理して矯正するために、姫消式消火システムの「Ⅱ号バッグ」を活用することは非常に有効だと思います。

脳の消費カロリーはとてつもなく大きいものです。初動時の資機材選定が軽減されることで活動エラーを大きくなくし、体力を温存することができます。

Ⅱ号バッグは本当に有効なので一度試してみてください。

消防司令補 井上敬司

消防司令補 井上敬司姫路市消防局 飾磨消防署 指揮第二担当

活動を常に見直すことで、より良いシステムになる

各部隊が行う訓練の成果が、実際の現場でしっかり行われているかどうか、また、行ったとしても問題点が出ていないかどうかは、指揮隊長が行う「活動評定」で抽出しています。これは建物火災であれば焼損面積30平方メートル以上が評定対象となっており、各小隊や管轄中隊長、指揮隊長から抽出した問題点等を改善するために、組織的にどういった対策を取るかの方向性を打ち出すものです。

この「活動評定」の結果、問題点の改善が必要とされたものについては、評定業務の担当指揮隊長が改善に関係する署課と改善方法について調整および決定し、その結果、内部規程の改正等のハード面の改善を行ったり、さらなる共通認識の確立が必要とされたものについては毎月全部隊が実施している「部隊運用訓練」の際に改めて周知徹底する等のソフト面の改善を行う形を取ります。このようなPDCAサイクルを活用し、警防体制を推進しています。

消防司令 今田和利

消防司令 今田和利姫路市消防局 飾磨消防署 指揮第一担当

私自身、救助隊を経験し、現在は指揮隊に至りますが、いろいろやってきた中で改めて消火について勉強しないといけないと思っていたところで熱心な若手からの提案があり、姫消式消火システムの研究が始まりました。彼らの思いや熱意に私も影響を受け、ホースバッグの試作にも毎日遅くまで行う訓練にも全面的に協力しました。

それでも今後、もっと新しく良いアイデアにより安全で確実な方法が生まれると思います。それらを一つずつ吸収し、事前任務も姫消式もそれ以外のことも地域住民の安全・安心のために更に発展させていきたいと思います。

消防司令 永田昌平

消防司令 永田昌平姫路市消防局 警防課 警防担当

姫路消防の現場活動における教養・訓練体制は、年間計画に基づく「部隊運用訓練」や「姫消式消火システム研修会」を行い、技術・知識の向上を図っています。

「部隊運用訓練」は毎月1回、全部隊および情報指令課が参加し、事前任務含む警防体制や指揮体制についての教養・訓練を実施し、組織的な警防活動の土台作りを行っています。また、「姫消式消火システム研修会」は年間4回、全消火隊19隊の小隊長クラスを集め、目的の理解や手技についての教養・訓練を行い、研修会間は全消火隊が同じ課題に取り組んでいます。

さらに、事前任務と姫消式消火システムの習熟度を測るために、年度末に全部隊が総合的な訓練を実施しました。

事前任務も姫消式消火システムもまだまだ発展途上です。これからも「皆で作り上げていく」というスタンスで様々な意見を取り入れながら、地域住民のためにより効果の高いものになっていけばと思っています。

消防司令 宗則悦夫

消防司令 宗則悦夫姫路市消防局 警防課 計画担当

警防課としてできることは若手の取り組みをサポートして後押しすること

時代が変わってくると人の考え方も変わってきます。従来は各消防署の消火隊が各々で思考を凝らし、独自の積載方法や独自のやり方をするのが基本でした。しかし、そうした時に一番のネックになったのが「連携」です。他隊と一緒に活動するのに、他隊の資機材がわからない状況では連携が取りにくい。また、人事異動ごとにやり方が根本的に変わります。若い職員達はそれをよしとせず、「連携が取りやすいようにこのシステムを使って同じ資機材、同じ活動でしたい」という思いを強くしていきました。

また、今の若手世代は仕事に対して「根拠」を強く求めるようにもなりました。上司が言ったことだけでなく、「自分達は何に基づき何をしなければならないのか」という考え方を重要視する時代になりました。関係法令や各種データに基づき設計された姫消式消火システムは、そうした職員達も納得させるものであったことが、全消火隊で実施する流れになっていったと思います。

令和2年度の姫消式消火システム研修会の始まりに、私は全消火隊の小隊長クラスに、「姫消式消火システムは姫路市消防局の重要な事業です。皆でしっかり取り組み、皆でいいものに作り上げて行きましょう!」ということを伝えました。これから皆でよくしていくんだ!という方向性を同じにし、これから皆でもっとレベルの高いものにしていかなければなりません。

また、この研修会時に全消火隊に課題を発表し、全消火隊が同じ課題に取り組むのですが、その動画を局の「共有フォルダ」にアップし共有する取り組みもしています。これは活動要領を見える化し、新たな提案や発想を促すこともできる取り組みだと思い、実施しています。また、スキルを上げるためには、「気付き」を促すことがとても大切だと感じています。いろんな活動を見て、自分達との違い等の「気付き」を増やすことができれば、必ずスキルは上がっていくと信じています。

【前編】の記事はコチラ
写真◎森位敦樹 Jレスキュー2021年9月号掲載記事 (所属と役職は取材当時のもの)

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