進化する「姫消式」消火戦術【後編】

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進化する「姫消式」消火戦術【後編】

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【立面火災パターン(連結送水管対応例)】
進化する「姫消式」消火戦術
1/機関員がスカートボックスの元ホースを連結送水管送水口に接続する。
進化する「姫消式」消火戦術
2/火点階ではⅡ号バッグを放水口に接続後、出火室前まで直線延長し分岐配備。その後、Ⅰ号バッグを接続し狭所展開。
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3/充水前にⅡ号バッグはコイルメソッドにするなど綺麗に整理し放水開始。
進化する「姫消式」消火戦術
姫路市消防局 飾磨(しかま)消防署の指揮隊と消火隊。基本は1隊3名運用。左から飾磨指揮/消防士長・向原裕真、消防司令補・井上敬司、消防司令長・森一也、飾磨タンク/消防司令・西川英明、消防士長・長瀬勇基、消防司令補・藤岡卓。
Pick Up:ホースバッグの試作で 若手の発想を支援!
進化する「姫消式」消火戦術
姫消式消火システムの要となるオリジナルホースバッグの陰に、どんなアイデアのバッグもミシンを駆使してカタチにしてくれる先輩隊員の存在があった。
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Ⅱ号ホースバッグのポイントは、バッグの上に分岐管を乗せる発想。分岐管がずり落ちないように2つのリングとバンドで固定される。
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廃ホースと廃シートベルトを集めて制作された手作りホースバッグ(写真下2点)。これが現在の小隊長セットの原型。
消防司令補 森下真資

消防司令補 森下真資姫路市消防局 飾磨消防署 警防第二担当

600人規模の本部でもボトムアップはできる!

今、全国で様々な消防戦術や体制についての改革がなされ、消防専門誌を通じて発表されることがムーブメントになっています。そうした先進消防本部の前向きな取り組みを羨むとともに、Jレスキュー2021年7月号掲載の消防人Kさんのコラムに共感した方はとても多かったのではないでしょうか。

「地域住民のためにもっと消防をよくしたい」でも「変えられない」、「変え方がわからない」……。私はこうしてモヤモヤし、悩んでいる多くの方の気持ちを本当に心から理解できます。私自身がそのように悩んでいる職員の一人だったからです。

企業では、現場で働く職員と組織運営を行う本部の距離感が近い「中小企業」ほど個人の考えが到達しやすいため、ボトムアップもトップダウンも行いやすい環境にあるとされています。逆に「大企業」になると必然的にその距離感は遠くなり、ボトムアップは困難にはなりますが、優秀な人材を大量に本部に配置し、現状や未来の分析専門部署等を設け、そこからの強力かつ的確なトップダウンによって大きな組織の運営を行っています。このスタイルは、消防組織においても同様であると感じます。

しかし、本部との距離感が遠い数百人規模の組織で、かつ本部に分析専門部署を構えている消防本部は数少ないのではないのでしょうか。当局は職員数600人を超える組織ですが、本部に分析専門部署はありません。その組織で今、現場で働く職員のアイデアから生まれた「姫消式消火システム」が全体運用されています。

当然、運用開始までは一足飛びには行きませんでした。考案から運用開始まで約4年を費やしました。この規模の消防本部でのボトムアップ事例は非常に珍しいと思います。当局においても過去に例がなく、実現に至るまで試行錯誤を重ねました。

今振り返ると、これが実現できた大きな要因は2点あると思います。それは、「何事にも挑戦させてくれる前向きな職場風土があったこと」、そして「賛同してくれる多くの仲間を増やすことができたこと」です。

平成28年当時、29歳の私にとって、諸先輩方が築き上げてきたやり方を否定するかのように「もっといい方法を研究したい」と提案することは相当勇気のいることでした。変わり者扱いされ、皆から嫌われたらどうしようと不安もありました。

ところが、いざ提案すると、上司の方々も後輩達も「やってみよう!」と共に研究に打ち込んでくれました。それからこれまでの間、挑戦することを批判されたことは一度もありませんでした。消防は閉鎖的な社会だという先入観もあり、誰しも一歩を踏み出すのに勇気がいると思います。しかし、元々は「人を救いたい」という高い志を持って入職した方ばかりです。自局と同様に、皆さんの周りには想像以上に前向きな消防人がたくさんいます。

また、賛同してくれる仲間をどうすれば増やすことができるかと考えることで、多くのことを学びました。私は最初、仲間を増やすために、人に納得してもらえるだけの根拠や理論を徹底的に追求しようとしました。しかし、途中でそれが一番ではないと気付きました。それより大切なことは、誰とでも分け隔てなく笑顔で接するということです。人は必ず笑顔の人とコミュニケーションを取ろうとします。そうして一人一人と話すことの積み重ねが結果的にプレゼンを拡散させるような状況になり、仲間を増やすことに繋がったと感じます。そしてこのシステムは、たくさんの仲間の意見を吸収して今の形に進化しました。

もちろん、万人が好むものなど世の中にはないのですから、反対意見の方も沢山おられました。しかし、この反対意見こそ一番の学習源になり、それがさらなるシステムの進化に繋がりました。そうしてさらに仲間が増え、その仲間の一人ひとりが自分の得意なこと、自分のポジションでできることを最大限に発揮した結果、全体での運用開始に辿りつきました。

ここに至るまで、私自身本当に多くの失敗と挫折を繰り返し、心が折れて途中で諦めようとしたこともありました。しかし、失敗から多くのことを学ぶことができましたし、挫折した時こそ乗り越えるための新たなアイデアが浮かびました。そして諦めずに継続できたのは、賛同して励ましてくれる仲間と苦しい時に支え合い、皆で作り上げたシステムの有効性を信じ続けることができたからです。

私が悩んだ時、たくさんの仲間が助けてくれたように、私のこの経験や思いを全国にいる志の高い皆さんと共有することで、その方の挑戦を後押しできたり、今悩んでいることへの解決のきっかけになれば幸いです。

進化する「姫消式」消火戦術
消防本部(局)警防課の方と飾磨消防署の皆さん。写真後列、右から4人目が飾磨消防署 署長の塚原昌尚消防監。後列一番右が同署副署長の山本裕之消防司令長。
進化する「姫消式」消火戦術
[自由研究を支えた仲間の方々]
写真右から、消防車両の艤装変更を推進した警防課 消防司令補・加茂宏樹、局長プレゼンの場を設けてシステムを大きく拡大してくれた当時の姫路西消防署署長(現:消防局次長)消防監・福岡宏文、ホースバッグの共同開発を推進した姫路西消防署副署長 消防司令長・名倉義人、自由研究発起人の消防司令補・森下真資。

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