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大雪でも火事は起こる
これが豪雪地帯ならではのスゴ技だ!
【白山野々市広域消防本部】
消防車が入っていけなければ、ホースもポンプも自分たちで運んでいくしかない。
北陸屈指の豪雪地帯では、こんな方法で真冬の山間部の消火活動に取り組んでいる。
写真◎中井俊治
Jレスキュー2016年5月号掲載記事
(役職・階級は取材当時のもの)
山間部では自然水利が主力
白山野々市広域消防本部白山消防署(石川県)は管内の約70%が林野。当然のことながら消防水利はきわめて乏しいが、水利が乏しいからといって火災が発生しないわけではない。
白山消防署管内の消火栓は本部全体の0.1%しかなく、防火水槽はあっても水槽水には限りがある。管内で火災が発生した場合の主力は自然水利ということになるが、自然水利は消火栓のように流量が一定ではないため扱いが難しい。
とりわけ困難なのが厳寒期の消火活動だ。同署管内は豪雪地帯に指定されるほど雪深い土地。雪上という特異な環境下での自然水利を使った消火活動について、日頃から熟知しておく必要があるが、市街地の消防署から異動してきた若い隊員は「消火栓があってあたりまえ」という環境しか知らないから、雪上で自然水利から迅速確実に取水し、消火活動を展開するノウハウがない。
この道40年のベテラン隊員である山口博文次長は、「自然水利を味方につけるには管内の地水利状況を完璧に把握しておくのが大前提。さらに頭に叩き込んだ地水利の情報をどのように活用するかは隊員の活動技術にかかっているため、雪上での訓練を繰り返して活動に慣れることが重要だ」と語る。
平時と異なる雪上での活動
積雪期の消火活動では、火点直近に車両を部署できるとは限らない。ただでさえ狭隘な道が多い山間部で雪が積もっていると車両が進入できず、ホースカーを使おうにも雪に車輪が取られて思うように進まないことがある。
そんなときには、バスケットストレッチャーにホースや可搬ポンプなどを積載し、火点直近の水利まで接近して、消火活動を行う。バスケットストレッチャーならば雪上を滑らせやすいし、ある程度深さがあるから雪に沈みこむ心配もない。積載するホースは必ず島田巻きにするのがポイント。二重巻きでは雪との摩擦で雪上にうまく展開することができない。
積雪により河川が使えない場合は、農業用用水路や融雪溝から取水することになるが、ポンプを稼働させ放水するのには最低でも吸管直径の下1/3程度の水が必要となる。水量が確保できない場合は水路をせき止めるなどして水かさを増す必要があるため、同本部では防水テント製のオリジナルせきとめ器を開発した。地形によってこの器具でうまく取水できない場合には、ビニール袋で代用したり、水路の底に泥等が多ければビニールシートを敷くなど、機転をきかせて活動することが迅速な火災鎮圧には不可欠だ。
同本部では定期的に積雪期に自然水利を使用した訓練を実施し、雪上での消火活動のエキスパートを育成している。
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雪上での消火活動の展開方法