Special
ダンプカー陸橋接触・落下事故
―52トンの橋桁の下からの救出―
11:15 <救助活動開始>
立案した方法で重ダンプ2台の荷台部分で橋桁の下から支える形で落下防止をとり、大型重機のバケットを利用して北側橋桁の転落防止、中型重機のバケットで南側橋桁の落下防止を行う、という一時的な安定を図る作業が始まった。安定化完了後、警戒区域を再設定し、関係者以外は立ち入り禁止とした。
救助隊が事故車両に接近するに先立ち、消防隊2名を橋桁の両端に安全管理隊として配置、些細な振動や異音を逃さず観察するように指示を出した。こうして二次災害防止と安全管理を図り、救助をバックアップする環境を整えた。
活動方針は指令センターを通じて消防本部にも逐一入っていたが、事故の大きさを鑑み、深谷市消防本部の責任者として消防長以下、消防署長、警防課長も現場に向かった。
工事関係者の協力で橋桁の安定化が図られると、救助活動を開始。誰も経験がない事案で、不安を抱える隊員に対し、吉田救助隊長は「なんとしてでも救出しよう」「いざというときは資器材を置いてでも逃げろ」の2点を伝えた。
まずは運転席ドアを油圧スプレッダーと油圧カッターで破壊。開口部が不足していたので、さらに左側ドア後方の側面を破壊した。こうして要救助者の左半身全体を確認することができた。要救助者は座席シートに座り、上半身が前屈し、運転席屋根部分と座席シートの間に挟まれている状態だった。
14:10 <特命出場>
要救助者早期救出のため、特別救助隊(花園救助1)に応援要請が出された。がれき救助の専門部隊の根岸救助隊長は画像伝送装置モニターで活動状況を見ながら、指令が出たらどう対応しようかとシミュレーションを行っていた。「実際に現場に到着してみると、イメージしていた以上の規模だった」と語る。
狭圧を解除しようにも、橋桁は重すぎて動かせない。車両自体の大きな破壊も困難と判断し、座席シートを破壊しての拡張を試みた。座席シート下側にある脚の一部を電動ソーで切断し、油圧スプレッダーと油圧ラムシリンダーを併用して拡張していった。この時点で救急隊は、要救助者に接触できていない。
14:23 <要救助者接触>
増援により救助活動も進み、要救助者の確認ができるようになった。救急隊(救急岡部1)の観察では、意識レベルⅢー300、呼吸兆候はなく、下顎部に硬直があり、左瞳孔は5ミリで対光反射はなかった。右前頭骨および右頬骨は露出していた。
15:11 <特命出場>
長引く救助活動の安全をより完璧なものにするため、安全管理指定小隊として消防隊(深谷1)に応援出場を要請。特別救助隊と安全管理指定小隊の2隊が増援され、引き続き懸命の救助活動が行われた。
一斉退避
ここで橋桁の両側で安全管理をしていた隊員から、事故車両の右側前輪に亀裂を確認したとの報告を受ける。もしタイヤがパンクすれば、橋桁が落下する危険性がある。指揮隊長は救助活動をいったん中断して、全隊員を現場から退避させた。
指揮隊は、橋桁がそれ以上落下しない方策を探る。工事関係者に、中型重機と橋桁の隙間に鋼材をブロック状に積み上げてもらうように依頼。橋桁安定化の補強を実施した後、救助活動を再開した。
拡張作業により、要救助者の左半身の狭圧は解除できたが、右肩付近の狭圧が解除できず、油圧器具を繰り返し使用することで拡張していく。事前の車両構造の確認と挟まれ状況の確認結果から、要救助者の右肩部分は座席シートと屋根部分に狭圧されているもので、突起物が引っかかっている可能性は低い。さらに身体の下側は座席シートにクッションが入っていたため取り除き、活動に当たっていた救助隊は、間隙を作ることにより要救助者を救出できると判断した。
19:42 <救助完了>
油圧器具でできる限りの拡張を施し、要救助者の右肩横に確認できたわずかな間隙にベルトスリングを通し、身体全体を可能な限り安静に、引き出す方法で救出を完了した。
19:50 <要救助者救出後観察>
特別救助隊(深谷救助1、花園救助1)により要救助者を車外へ救出すると、待機していた救急隊が即座に要救助者を観察。その結果、「明らかに死亡している場合の確認票の2」の観察結果から6項目すべてに該当したため、警察に申し送り不搬送となった。
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自ら現場入りした消防長へのインタビュー