
Report
―アメリカ民間救助事情―
カヌーが紡ぐ命の連携
2025年5月29日、東京消防庁渋谷消防署に民間捜索救助隊員ポール・ミデンドルフ氏が訪れ、アメリカを何度も襲うハリケーン災害での救急救助活動、民間(NPO法人)としての救助団体の活動などを同消防署の職員向けに語った。その模様をレポートする。
災害写真◎ポール・ミデンドルフ提供
災害が育んだ市民の力
カトリーナからハービーへ
アメリカでは、大規模災害時における民間救助活動の役割が飛躍的に進化している。その背景には、過去の苦い経験と、市民の自発的な行動が官民連携を推進してきた歴史がある。
2005年のに発生したハリケーン・カトリーナによる災害では、民間人による救助活動が拒否され、結果として約1300人もの死者が出るという悲劇を経験した。この反省を踏まえ、2017年のハリケーン・ハービーによる災害では、一転して市民が救助活動の実に75%を担うという驚くべき実績を上げた。この成功を契機に、アメリカ全土で民間救助組織(NPO)が形成され、その活動は大きく発展していった。


浸水市街地での切り札 「カヌー」の有効性
特に、市街地が冠水した水害での救助において、カヌーは非常に有効なツールであるという。ポール氏自身もハリケーン・ハービーでカヌーを使い、7日間連続で活動し、数百人を救助、医療物資を届けた経験を持つ。カヌーは、操縦が容易で、水に浸かった車や家屋の間をぬって進むことができ、モーターを使用しないため、要救助者の小さな声を聞き取れる利点がある。

なぜ民間救助が成り立つのか
アメリカの民間救助が成り立つ背景には、その高い専門性がある。彼らは単なる一般人ではなく、多くのメンバーは元軍人、元消防士、元警察官、医師、看護師、救急隊員(EMT)などがボランティアとして参加。部隊運用の専門訓練を受けており、ボート、水陸両用トラック、ヘリコプターといった多様な装備を駆使して活動している。中にはロバや馬を使用するケースもあるという

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国や自治体との連携