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【コラム】ランクル消防車「ポン太」と北海道の旅
―第1回目―
2024年9月1日(4日目)
気づくと朝になっていた。
眠たい体を引きずりながら駐車場を貸してくれたS氏に感謝を告げる。
そして、昨晩の面白い車とやらを見に行かせていただくことに。
美唄から少し北上したある町の一角にその「秘密基地」はあった。
ランクル50系の消防車が2台、他にも無数のランクルが羽を伸ばしていた。
北海道のランクルの乗りというのは、どうも1台だけで収まることがないらしく複数台所有するのが一般的らしい。
20分ほどで出発する予定が、濃厚なランクル談義で結局2時間も滞在してしまった。
気づけば昼の12時。
少し変わった友人の元を去り、どこへ向かおうか地図を開いて睨めっこ。
日の入りが17時30分か……。のんびり走っても利尻島に沈む夕日を見ることができる。
そう思って滝川市内から国道275号線に飛び乗った。
この辺は北海道でも有数の田園地帯。
沼田町からJR留萌本線の石狩沼田―留萌間の廃線跡を見ながら日本海側を目指した。
うかうかしていると夕日が沈んでしまうが急ぐことはできない。
アクセルを踏めば60Lのガソリンタンクはあっという間に空っぽになってしまう。
今日の北海道、日差しが強く気温も高い、もちろん燃費のためエアコンなど入れることはできない。
耐えてこそ、目指すは良い燃費。
留萌から道は北側を向き日本海沿いを進む。
この道は大好きな日本海オロロンライン。
日本海側を北上するこの道は夕日がきれいに見える。
無論北海道を旅するすべてのライダーあこがれの道と行っても過言ではない。
辺りが薄暗くなってきた頃、ようやくオトンルイ風力発電所が見えてきた。
日本海オロロンラインの看板と言える風車群は、まもなくその姿を消す。
老朽化や鳥類の保護の観点から小ぶりな風車へ建て替えられる。
ビュンビュンと風を切る風車の横を走り抜ける。
時刻は17時20分。
丁度よく利尻島に沈む夕日が見える所までやって来た。
少し強いくらいの風が吹く中、利尻島に沈む夕日を眺める。
快晴とはいかないものの、ここでしか見れない景色に浸れる。
何をするでもなくただただ眺める
夕日は恥ずかしいのかあっという間に沈んでいく。さて、今日はどこで寝ようか。
スマホを開きナビを見る。
無計画ゆえ、寝る場所さえ適当である。
JR宗谷本線「雄信内駅」の文字がナビにでる。
かっこいい名前と思い詳細を見ると、どうやら近々廃止されることが決まっているらしい。
しかもレトロな木造駅舎。距離にして約40kmあまり。
目的地がない旅ゆえ、次の目的地をここに決め走り出した。
夕暮れは次第に群青色に変わり夜が訪れる。
いつ飛び出してくるか分からない鹿さんに怯えながら1時間。次の目的地雄信内駅に着いた。
読み方は「おのっぷない」と言うらしい。古い駅舎の待合室に人影があった。
こちらが口を開くよりも先に「こんにちは」とハニカミながら声を掛けてきたのは10代の青年。
彼は9月半ばまで旅をするとのこと。行先を決めず、列車で北海道を一人旅しているらしい。
かれこれ2時間はこの駅にいるという。
方法は違えど旅の仕方は彼も私も似たり寄ったり。
そんな彼も、次の列車で名寄方面へ南下して行くとのこと。
今まで見てきたこと、起こったトラブル。嬉々として彼は話す。
彼の話す内容はどれも刺激的だった。
若いなりにお金を工面するため、寝城は漫画喫茶であるとか。どこそこの路線で見た景色が最高だったとか。
楽しそうに話す彼の顔から、旅を思いっきり楽しんでいる事が伝わった。私には彼が羨ましく見えた。
18歳で社会人となった私は気の抜けた旅をすることが長くできなかった。
最近でこそ、ワガママを言って休暇を申請する胆力が身に付いたが、本当は若いうちにそう言った旅がしたかった。
そんな僕らにも平等に時間は流れる。
別れの時間。
稚内方の暗闇から警笛か聞こえた。
暗闇を切り裂いて現れた1両の小さな汽車。
文字通り、陸の孤島となっているこの駅で、乗り降りする住人など居ない。
ただ、一人若い旅人だけが乗り込んだ。
間もなく気だるそうにドアが閉まると、ゆっくりと汽車は動き出す。
車内から手を振る若者を乗せ、汽車はゆっくりとゆっくりと暗闇へと消えていく。
残された一人。
暗闇の海に一つある島。そんな駅。
北国の古い駅は多くの出会いと別れを見てきたのだろう。それも今、終焉を迎える。
駅舎を写真に収め今日の係留地を探すことにした。
街灯などない真っ暗な国道40号線を名寄方面に南下する。
地図では左に川、右に山がある道を走っているらしいがまったく見えない。
着いたのは名寄市。夜の国道をひた走り気づけば23時になっていた。
「道の駅もち米の里☆なよろ」に着いて荷台に滑り込み目を閉じた。
風呂に入るのを忘れた……。夜ご飯も食べるのを忘れたなぁ……など考えているうちに眠りについた。