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未来への羅針盤
画集『消防車』佐藤榮一と横浜の歴史
精緻な筆致で描かれた消防車や消防関連の航空機・船舶。それら102点のイラストと解説、そして思い出が詰まった一冊が誕生した。タイトルは「画集『消防車』佐藤榮一と横浜の歴史」。著者は横浜市消防局の元職員であり、半世紀にわたり消防を見つめ続けてきた。
写真◎編集部
未来への羅針盤として描いた、102点の消防車たち
消防車との出会いは一台の「アーレンフォックス」
1965年に横浜市消防局へ入局した佐藤榮一さん。翌年、初代加賀町消防団長の増田清氏の案内で、市内展示中の希少なアメリカ製のアーレンフォックス消防車を初めて目にしたという。
「その美しさに魅了された」と佐藤さんは振り返る。横浜には1919年に2台が輸入された記録があるが、実物も写真も残っていなかった。「精密なイラストがあれば、資料発見のきっかけになる」との思いで、その姿を細部まで再現した。

描き続けた50年 後輩への“贈り物”
以来、消防車への情熱とともに、正確かつ美しいイラストを描き続けた。1970年代からは横浜消防の機関誌の表紙を毎月担当し、ポスター制作なども多数手がけた。その集大成が、この画集だ。
収録された作品には、日本初の救急車、高層ビル対応のはしご車など、消防の進化を物語る車両が並ぶ。解説には、現場で見て学び、記録してきた“生きた歴史”が息づく。
佐藤さんは若い頃に一度、イラスト制作を通じて漫画家・やなせたかし氏と交流する機会があった。作品を見せた際にアドバイスも受けたという。
職場では「本当に伝統ある良い消防をつくろう、と上司から多くを教わった。いつかその歴史を形にし、後輩に引き継ぎたいと思ってきた。どこから描くかって? いつもタイヤから描き始めるんですよ」。そう笑う佐藤さんだが、その言葉の奥には、消防の未来を託す強い願いがある。

消防の過去を描き 未来を照らす
佐藤さんは最後にこう語った。「消防はこれからどのように変わっていくのか。現役消防士のみなさんにも考えてもらいたい。この画集が、未来の羅針盤になれば」。
半世紀の記録は、単なるイラスト集ではない。そこには、横浜の街を守り続けた者だけが描ける、魂の記録が詰まっている。



Profile

佐藤 榮一Sato Eiichi
1942年(昭和17年)北海道室蘭市生まれ。陸上自衛隊北部方面総監部、いすゞ自動車研究部金属材料研究課を経て、1965年横浜市消防局に入局。35年間の在籍中、教育や救助をはじめ数多くの部署において多岐にわたる新規事業の企画立案に携わり、消防局の礎を築いた。消防局退職後、民間企業勤務を経て、消防時代の実績が評価され、桐蔭横浜大学法学部客員教授に就任。防災·生活安全「我聞塾」を主宰し現在に至る。横浜市青葉区在住。