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東京消防庁YouTube動画「火災予防うんどう!」
その企画からリリースまで

東京消防庁西東京消防署では、2025年3月の火災予防運動に合わせ、「火災予防うんどう!」のオリジナル動画を制作し、YouTubeの東京消防庁公式チャンネルで公開した。

写真・文◎伊藤久巳

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消防士がリズムにのって
軽いステップでダンスを踊る

東京消防庁西東京消防署では、2025年3月の火災予防運動に合わせ、「火災予防うんどう!」のオリジナル動画を制作した。本編3分ほどの長さで、まるでラジオ体操のようにお手軽に誰でも踊れるもの。これをYouTubeの東京消防庁公式チャンネルでリリースするや、その軽快なリズムと、登場する消防士たちの楽しいダンスで大きな反響を呼んでいる。

出演するのは全員が西東京消防署所属の消防士たちで、ある隊員は正服姿で、ある隊員は予防服姿で、ある隊員は執務服姿で、ある隊員は救助服姿で、ある隊員は救急服姿で(途中で感染防止衣に着替える細かさも)、ある隊員は防火衣姿で、ある隊員は機関員の安全チョッキ姿で、ある隊員は車両整備服で、ある隊員は火災調査服姿で次から次へと登場。全員が軽快なリズムにのって笑顔でダンスを踊る。そこでは、消極的に踊る隊員などは誰もいない。全員が火災予防という大きな目標に向かって、笑顔満面でキビキビと動くところがとても気持ちいい。

ダンスの合間には査察出向、消防設備点検、防火対象物点検、防火衣着装、災害出場、ホース延長、三連はしご搬送と伸梯、そして体力練成など、西東京消防署でのあらゆる消防業務もリズムにのって模擬されている点がとても楽しい。

署を挙げて取り組むと同時に
高いパフォーマンスを実現する

「“火災予防うんどう”という運動があれば、子供から大人まで老若男女問わず、楽しくわかりやすく防火防災について学べるはず」

それは西東京消防署、消防司令長・成宮正起予防課長のひとり言から始まった。成宮課長といえば、これまで長く特別救助隊、あるいは消防救助機動部隊に所属し、火災を含むたくさんの災害現場から数多くの要救助者を救出してきた勇者。悲惨な現場の最前線にもあまた接した経験があることだろう。だからこそ、そうなる前に防火防災をしっかりとやってほしいと心から考えたに違いない。ここに「火災予防うんどう!」の胎動が始まり、その案は2024年11月、当時の植松秀喜署長に上申。すると、諸手を挙げて賛成され、制作プロジェクトがスタートした。

制作する上でのコンセプトは以下のように掲げられた。

  1. 親しみやすい楽曲
  2. 楽曲のテーマと歌詞に沿った振付
  3. 署挙一体感の醸成と高いパフォーマンスの実現
  4. 都民や子供に親しみやすいもの
  5. 老若男女問わずダンス可能で、また外国人にも対応

楽曲も振付もすべてオリジナル
署員の3分の1以上が出演

このプロジェクトの実務を任されたのが、予防課防火管理係の消防司令補・渡邊亮介主任だった。まだベースが何もない状態から、1本のきちんと完成された動画を制作しなければならない。もちろん、予防課防火管理係としての通常業務もあり、それと並行して進めなければならない。

「スケジュールがとてもタイトだった。来たる年の3月1日から始まる火災予防運動に間に合わせなければならない。だが、制作にゴーがかかったのは、もう12月を迎えようという頃だった。幸運だったのは、当時の署員の中に作曲や演奏を趣味でやっている署員がいたこと。すぐに作詞と作曲を依頼した」(渡邊主任)

作詞・作曲を担当したのは、消防司令・亀野弘昭係長(現・渋谷消防署勤務)だった。時間がない中、亀野係長は西東京消防署を挙げての高いパフォーマンスの動画を制作するということを粋に感じ、通常業務と並行して曲を創り上げた。

「歌詞の中で一番気に入っているのは〝予防はいつでも最前線〟というところ。火災予防は火災になる前にそれを防ぐということで、それは我々にとってはいつでも最前線なんだというメッセージを込めている」(亀野係長)

楽曲が完成すると、次はこれに対する振付だ。渡邊主任が周囲を見渡すと、そこにも幸運があった。

「たまたま自分の妹が長く趣味でダンスをやっていた。そこで、まもなく完成する楽曲に合わせた振付を創ってくれないかと頼むと、快諾を得た」(渡邊主任)

こうして、楽曲と振付が一緒になった完成品ができ上がったのは年が明けた令和7年1月だった。だが、渡邊主任はそれまでの楽曲と振付ができ上がる間、じっと手をこまねいていたわけではない。なにしろ、西東京消防署挙げての動画なのだから、毎日勤務も交替制勤務もできる限り多くの署員に出演してほしい。全編の構成を考え、何番のどこの部分は「本署1部」というように細かく振り分けていく。振り分けた署員には担当の部分の振付を集中的に覚えてもらい、何度も踊り込んで高いパフォーマンスを目指してもらう。

「2月には実際の撮影に入った。撮影する内容は、『火災予防ダンス!』を踊ってもらうだけでなく、間奏などで使用する通常業務もあった。撮影する職員の数はとても多く、毎日勤務者あり交替制勤務者ありと勤務体系もさまざまで、もちろん通常の予防業務もあれば、災害出場も訓練もある。本署だけでなく、田無、保谷、西原出張所の職員も出演するため、時には出張所へ撮影出向することもあった。また、植松署長(当時)以下、幹部消防官にも出演をお願いした」(渡邊主任)

出演する職員のスケジュール調整もさることながら、撮影そのものも簡単にはいかなかった。撮影も中盤に入る頃には、春の火災予防運動の開始までもう1か月を切っていた。

「撮影が進むにつれて、以前に撮影しているものと同じアングルになってしまったり、動画なのに動きが乏しかったり、アングルに苦労するようになった。一方で、時間がないので、撮影と並行して編集作業にも入った。撮影では1フレーズ当たり30分以上カメラを回した部分もあり、編集作業ではそのすべてを見てから一番いいものを取り出して使用したが、これが約30フレームもあり膨大な時間がかかった」(渡邊主任)

そして、老若男女問わずという観点から、椅子に座ったままでも踊れる映像を全編にわたって流しているほか、外国人対応という観点から、歌詞の日本語テロップの下段にも英文によるものも表示した。

こうして、令和7年2月中には編集作業もすべて終わり、「火災予防うんどう!」はついに完成。同3月、東京消防庁公式YouTube動画として発信されることになった。なお、令和7年3月31日現在の西東京消防署署員総員は211名で、このうち実に76名もの多くの職員が出演。全職員の3分の1以上が出演したことになる。

「多くの人に視聴していただき、防火防災思想の普及啓発になればと考える。さらには、街の人から親しみやすい消防のイメージアップと署員のモチベーションの向上につながればと考えている」(成宮課長)

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