髙野駿也
さいたま市消防局 警防部警防課 装備係 消防副士長 髙野駿也
Interview
消防車両づくりは、イマジネーションが大切
装備担当者の仕事
車両製作は常に金銭管理とともにある
一般的に装備担当者はお金に関する知識が必要だと言われている。すべての消防車両は市民の税金によって購入するものであり、導入に関しては総務省などからの補助金も関わってくる場合が多い。
「装備係に配属されてすぐの頃、先輩から窓の外の葉がたくさん茂る欅の木を見て言われたことがある。“装備係がやることのうち、車両そのもののことはあの欅の葉っぱ2〜3枚にすぎない。それ以外のほとんどの葉っぱはお金やその他のことなんだよ”と」
装備係の業務は、言うなれば予算がすべてと言ってもいい。製作スケジュールの進行は常に予算と並行して考えなければならない。
「局の財務係と同じくらい詳しくなった。車両製作には必ず予算編成というものがあり、お金としっかり向き合わなければならない。議会案件になるような金額の場合、どういう車両をどういうスペックで製作するのかなどの資料をまとめる。本庁の財政局長を委員長とした業者選定委員会で審議を受け、そこでさまざまな質問が出てクリアしていく」
救助工作車Ⅱ型 さいたま市消防局 北消防署
〈SPEC〉
車名/日野◎通称名/レンジャー◎シャーシ型式/GX2AB-101081◎全長/7850mm◎全幅/2330mm◎全高/3200mm◎ホイルベース/3790mm◎最小回転半径/6.5m◎車両総重量/11740kg◎乗車定員/6名◎原動機型式/A05C◎総排気量/5120cc◎駆動方式/4×4◎ウインチ/大橋機産製MCW550R-S◎クレーン/タダノ製ZX303HRENBA◎照明装置/湘南工作所製SLD-6000UCL2-DEB◎配備年月日/令和3年3月2日◎艤装メーカー/モリタ
デザインはシンプルに
中身はぎっしり
「デザインはシンプルに。中身はぎっしり。記入文字は統一する。これを局の車両製作のコンセプトとしている」
さいたま市消防局の消防車両は、どの車両も見た目はとてもシンプルだ。外観はよけいなデザインなどを一切行わず、文字もすべて画一的なもの。だが、中身は常に良いものがぎっしりと詰まっている。
「これを称して『チョコもなかジャンボみたいだよね』と言われたことがある(笑)」
チョコもなかジャンボとは、アイスクリームのもなかの中に板チョコレートが入った菓子のこと。外見に派手さはないが、食べてみるとクリームとチョコレートがぎっしりと入って食べ応えがある。さいたま市消防局の消防車両を指して、まるでそのようだというのだ。
「シンプルで統一された外観のカッコ良さは、緊急消防援助隊の合同訓練などで局の車両がまとまって隊列を組んだ時に実感できる。同じデザインの車両がずらりと並んだ様は壮観で、これはなかなかのものだと自負している」
また、新しい資機材にも常に目を光らせ、消防にとってプラスが見込めるものであれば積極的に導入するというスタンスをさいたま市消防局はとっている。
「さいたま市消防局は埼玉県の代表消防機関として、埼玉県下のトータル的な消防力の向上に努めなければならないという使命もある。組織のスケールメリットとして、新しい資機材・車両があった場合に、まずさいたま市が導入して県内消防の参考にしてもらうということもできる。自局はもちろんのこと、埼玉県内全体としての消防力向上の役に立ちたい。こうした思いがあるので、量産前の段階にある資機材を業者から紹介されて試験的に使用することもある」
資機材搬送車(支援車Ⅱ型) さいたま市消防局 警防課
〈SPEC〉
車名/日野◎通称名/レンジャー◎シャーシ型式2KG-GX2ABA◎全長/6660mm◎全幅/2350mm◎全高/3160mm◎ホイルベース/3790mm◎最小回転半径/6.5m◎車両総重量/11275kg◎乗車定員/3名◎原動機型式/A05C◎総排気量/5120cc◎駆動方式/4×4◎配備年月日/令和3年3月5日◎艤装メーカー/モリタ
可能性や面白さは向き合い方次第
以前の製作車両としてすでに配備されている車両のうち、髙野主事がメイン担当として製作したものは、岩槻消防署配備のはしご車、北消防署配備の救助工作車、警防部配備の後方支援車、指揮支援車、資機材搬送車の5台。はしご車はさいたま市内初のマギルス製先端屈折式、救助工作車はバス型ではなくダブルキャブ型のシャーシを採用し、さいたま市らしく後方が縞鋼板張り、後方支援車は市内災害における活動支援の拠点車としても使用可能なスマートなFRP製拡幅車両、指揮支援車は機動性が抜群の短尺型マイクロバス、資機材搬送車は全国初のコンテナ式ガルウイングを採用するなど、5台すべてが特徴ある車両に仕上がっている。
「車両担当者はイマジネーションを持つことが大切だ。装備係にはまっさらな状態で来たが、たとえばこの収納がどうならもう少しファーストアタックが早かったなど、こうしたいという構想は結構持っていた。装備担当者はそれを形にできる部署で、可能性や面白さは自分の向き合い方次第だと思う。長い消防人生の中でとても貴重な場所だとも思う」
そして、こう締めくくった。
「配備した部隊にも、車両製作業者にも感動を与えられたらうれしい。もちろん、その車両で市民を救出できれば、それはこの上ない達成感だ。そして、車両が役目を終えた時“いい車だったね”と言ってもらえたらいい。派手さがなくても、車両を運用される職員の皆さんの心に残るような車両を作りたい」
後方支援車(支援車Ⅰ型)
〈SPEC〉
車名/日野◎通称名/レンジャー◎シャーシ型式/2DG-GX2ABA◎全長/1018mm◎全幅/2490mm◎全高/3660mm◎ホイルベース/5750mm◎最小回転半径/8.6m◎車両総重量/13190kg◎乗車定員/10名◎原動機型式/A05C◎総排気量/5120cc◎駆動方式/6×4◎拡幅機能/片側◎配備年月日/令和2年3月18日◎艤装メーカー/平和機械
消防副士長 髙野駿也さいたま市消防局 警防部警防課装備係 主事
平成22年、さいたま市消防局消防士拝命。岩槻特別救助隊、桜水難救助隊を経て、平成29年度から現職。(取材当時)
職務上もともと大型自動車免許を保持するも、車両そのものの知識はほとんどはなく、装備係で「まっさらな状態で車両担当に」。だが配属4年目を迎えた現在は周囲から「髙野はいつも自分の席にいないな」と言われるほど車両研究に傾注する。