
Interview
「隊長のリーダーシップ」インタビュー04
川田恵一
署員たちを怪我なく家に帰すため
そして住民たちを守るため
めったに現場には赴かない署長も少なくないが、川田は現場主義を徹底している。言葉だけではなく、実際に建物火災や特異災害の現場などには必ず足を運ぶという。そして自ら指揮宣言をして指揮をとる。日常的なコミュニケーションを積み重ね、消防士たちのことを理解しているからこそできる采配だ。
「署長としては任せるところは任せる、意見を聞くときは聞いて民主的に。でも、部下たちが迷っているときには独裁モードになってビシッと指示をする。これをうまく使い分けることも大事だと思う。現場はもちろん、普段からそうだ。自分が判断しなければいけないと思ったらズバッと。で、もしその指示に間違いがあったらすぐに訂正する。それも大事」
そうした川田のリーダーとしてのスタイルは、自ら言う“細かい性格”ゆえの部分もあるが、それ以上に消防士としての誇り、そしてこれまで接してきた先輩消防士から受け継いできたものだ。
「若いときに救助工作車の資機材を徹底して覚えて、先輩から『覚えたのか?』と聞かれたので『完璧です』と答えた。そしたらひとこと、『おまえには心がない』と……。いくら機材の扱いを覚えても、人を救いたい、助けたい思いがなければ機材に遊ばれているだけだという意味だった。その言葉はいまでも忘れません。身体を鍛えて資機材の扱いを覚えても、それだけじゃ消防の仕事はできないんです」
川田が若い消防士だった頃は、消火活動や救助活動といういわば本来の消防の仕事がほとんどだった。だが、今では消防の仕事は多岐にわたる。石橋消防でも、市役所が休みの時間には戸籍届の受理も担っている。出動要請がかかっても、排水溝に落ちた犬や猫の救出要請というケースも少なくない。そんな中で、若い消防士たちの士気を保つ。それも署長としては心がけねばならない。
「でもそこにはぶれない軸があれば大丈夫だと思う。私も厳しくするだけじゃなくて、若い消防士に声をかけて冗談を飛ばしたり、たまにはバカもやる。でも、消防士はかくあるべきという軸だけは絶対にぶらさない。ぶらさないから、周りに合わせたり不本意なこともできたりする。異動になって自分の元から離れていく部下には、『ぶれるなよ』というのは必ず言うようにしている」
日々細かい指示を飛ばしたり報告を求めるのも、訓練を見守って指導をするのも、現場に足を運んで指揮を取るのも、すべて署員たちを怪我なく家に帰すため。そして住民たちを守るため。署内にいる時間のほとんどを署員たちとのコミュニケーションと消防実務の勉強に費やしている川田のぶれない軸は、そこにある。
「そういう性格なんで。でも、私も家に帰ったら細かい指示はしない。妻のグチを聞くようにしています(笑)」
川田には2人の息子がいる。長男は現役消防士で、次男はこの春から消防学校入校。息子に消防士を勧めたことは一度もないという。しかし、ぶれない消防士として歩んできた川田の生き様は、確かに伝わっているのだ。





川田恵一石橋地区消防組合 石橋消防署 署長 消防司令長
1989年(平成元年)入職。1990年(平成2年)国分寺分署消防隊、1993年(平成5年)救助隊、1998年(平成10年)栃木県消防防災航空隊派遣、2000年(平成12年)特別救助隊、2007年(平成19年)消防大学校救助科入校、2010年(平成22年)壬生分署消防隊、2012年(平成24年)本部警防課、2014年(平成26年)壬生分署副分署長、2017年(平成29年)石橋消防署副署長、2019年(令和元年)壬生消防署長、2021年(令和3年)石橋消防署長。