「隊長のリーダーシップ」インタビュー04 <br>川田恵一

Interview

「隊長のリーダーシップ」インタビュー04
川田恵一

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消防士としての軸をぶらさない

特別救助隊で長年小隊長を務めてきた川田には、これまで何度もリーダーシップを問われる経験があった。東日本大震災の被災地に派遣され、一時帰宅中の住民に付き添っていたときのこと。余震が発生して津波警報が発令された。神社のある小高い山の上に住民たちとともに避難しなければならない。ただ、高齢で走れない被災者もいる。川田は「ぜったいに住民を追い抜くな」と隊員たちに命じた。消防士である自分たちが住民より先に逃げるわけにはいかない。消防士としては当たり前と言われればそれまでだが、若い隊員の命を預かる小隊長としてはシビアな命令だった。

また、国道4号線で大型の貨物トラックが標識灯にぶつかった事故も、川田が“試された”できごとだった

「車内に閉じ込められた運転手の救出なんだが、もうクルマがぐちゃぐちゃに潰れていて、いろんな資機材を使ってあれこれやったけどぜんぜんダメで。人ひとり入れるくらいのスペースに自分が入って、隊員は入れ替わりで休ませながら、4時間以上かかった」

運転手は明らかに亡くなっていた。しかし死亡の診断は医師でなければできないし、死亡診断がされたとしてもご遺体の切断は遺体損壊になってしまう。法律的にも、そして川田の消防士としての心根としても、救出を諦めることはできなかったのだ。

「疲れきって帰ったら、先輩に『4時間はかかりすぎだ。救助隊としてそれじゃダメだ』と言われた。でも、何日か後に現場の写真を見たというその先輩が『悪かった。あの現場だったら俺でも4時間でできたかどうかわからない』と言っていただいた。隊員同士、普段の訓練で培ったチームワークがあったから、最後まで諦めないでできた。リーダーシップをとることができたんじゃないかな、と思っている。帰りながら隊員と『大変だったなあ』と。ちょっとグチをこぼしたりしたね。メンタルヘルスの問題もあるので、少し毒を吐く、弱音を吐くことも大事なんです」

このような過酷な現場も経験する特別救助隊。そこでの経験は、署長となった今でももちろん大いに生きている。しかし、一方では小隊長時代と同じようなリーダーシップでは通用しないのも事実だ。

小隊長は自らが率いる隊のことだけを見ていればいい。隊員たちとチームワークを発揮して、3人の隊でも4人、5人分の仕事ができるようにする。それが小隊長としての任務だ。

「でも、署長になると隊がいっぱいありますからね。それ全部を見なければいけない。隊長それぞれでまた性格もやり方も違うし、そういったことも把握して、視野を広げて全体を俯瞰して見ながら指揮を取らないといけない。私が若い頃はほんとうに体育会系で、『やれ!』だけだったが、今はそれではダメだからね。隊員も隊長もそれぞれの得意不得意、性格もできるだけ把握して、すぐに判断して指示を出す。指示もできるだけ具体的にするようにしている。『あそこにはしごをかけて誰と誰がいけ!』と。やっぱり、細かい。これは性格ですね(笑)」

「隊長のリーダーシップ」インタビュー04 川田恵一
先代の救助工作車の前にて。長年、特別救助隊の小隊長として務め、現在運用する救助工作車の更新計画にも携わり、思い入れの深い車両となった。(写真/石橋地区消防組合提供)
「隊長のリーダーシップ」インタビュー04 川田恵一
交通救助訓練にて。人命救助の最前線での経験は、署長として最大限にその能力を生かすことができている。(写真/石橋地区消防組合提供)
「隊長のリーダーシップ」インタビュー04 川田恵一
2007年(平成19年)、消防大学校救助科支援講師にて。当時、共に学んだ同期との仲間の繋がりは今でも大切にしている。(写真/石橋地区消防組合提供)

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署員たちを怪我なく家に帰すため、そして住民たちを守るため

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