水槽付消防ポンプ自動車Ⅱ型 津市消防本部

日本の消防車両

水槽付消防ポンプ自動車Ⅱ型 津市消防本部

津市消防本部 中消防署[三重県]

写真・文◎橋本政靖
Jレスキュー2018年1月号掲載記事

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「津消式」は健在!! 軽量・短尺化を実現した 高機能8000L水槽車

ボディ一体角型水槽を用いることで短い全長の車両に仕上がっている。ハイキャブ部の赤色灯およびサイレンは、車両各部の補助警光灯とネットワーク化され、走行状態に応じて点滅パターン、サイレン音の指向角度が自動で変化する。
「津消式」の更新で難題続出

三重県の中心部に位置する県庁所在地の津市。海沿いの都市部と中山間地域の両方を管轄し、面積711平方キロメートル、約28万1000人の生活を守る津市消防本部は、平成元年から「津消式小型消防ポンプ自動車」の独自開発を行っていたことで有名である。近年では消防車の性能向上や補助金の関係で製作されていないものの、これまで小型シャーシをベースとした1500~2000リットル水槽付消防ポンプ自動車、10m屈折放水塔付消防ポンプ自動車、救助工作車、中型シャーシをベースとした5000リットル小型給水車、15mはしご付消防自動車などの「津消式」を配備してきた。

中消防署管内では、建物を有する地域においてはほぼ満足に水利を得られるが、農地や法面火災などにおいては水利から遠い場所もある。そのため、中消防署および北消防署に5000リットル津消式小型給水車、久居消防署に8000リットル水槽付消防ポンプ自動車を配置して対応してきた。

今回更新するのはこの5000リットル津消式小型給水車で、従前車両に加えて、次のようなスペックが要求された。

・ ダブルキャブ
・ 大容量水槽(8000リットル)
・ 資機材収納スペース
・ A-1級ポンプ

総務省消防庁による消防車両の規格で考えると、小型動力ポンプ付水槽車は大容量水槽を持つが、3名乗車のシングルキャブに限られ、資機材積載スペースも大きくはとれないうえにポンプが小型動力ポンプである。一方、水槽付消防ポンプ自動車では、水槽容量を8000リットルまで大きくすることは通常困難である。

要求をすべて満たすには、水槽付消防ポンプ自動車をベースとして水槽の大容量化を行いつつ、車両総重量や車両全長の問題をクリアしなければならない。それらを解決してPP(ポリプロピレン樹脂)製水槽、ハイキャブ、A-1級ポンプを有し、さらに全長を短尺化させた日本初登場の車両が誕生した。

ハイキャブを採用することで一般のキャブより高い室内を実現した。ハイキャブはアルミおよび鋼製であり、前面に補助警光灯をV型に配置してデザイン性と視認性を両立させている。
後部はアルミシャッターおよび右側に上部昇降用のはしごが設けられている。
車両右側は前からポンプ部、大容量水槽、後部積載部となっている。
車両左側は前からポンプ部、大容量水槽、後部積載部となっている。
軽量かつ高強度なPP製ボディ一体角型水槽

ベースシャーシは22t級、前輪1軸後輪2軸シャーシを使用しているが、本車両の要求項目であるダブルキャブ、大容量水槽、資機材収納スペース、A-1級ポンプ搭載をすべてかなえようとすると、車両サイズはもとよりシャーシ許容重量的にもかなり厳しい。そのため、水槽は大容量の8000リットルを確保するためにさまざまな工夫を施し、各種の装備を含めた車両総重量は21t未満に抑えている。

一般的な大型水槽車に用いられている楕円型水槽は構造的に軽量化が可能であるが、その形状から容積に比べて全長が長くなるうえ、積載スペースを確保しにくい短所がある。そこで本車両ではボディ一体角型水槽とすることで、一般的な楕円型水槽より水槽全長を短くし、車両全長にあっても9.16mという小型動力ポンプ付水槽車よりも短い短尺化を実現している。

水槽の素材としては、一般的に強度が高く加工しやすい鉄鋼やステンレス鋼が用いられるが、重いという欠点がある。そこで本車両では軽量で耐食性の高いPP製の水槽を採用し、十分な強度を確保するとともに十分な耐久性を確保した。

近年では水槽の軽量化のためにGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を用いる例も増加してきている。このGFRPはガラス繊維を樹脂に含浸して強化しており、軽量・高強度でさまざまな形状が作成できるが、角部や接合部などの応力集中部が弱いこと、異方性があり特定の方向に応力や衝撃力がかかった時に破損しやすいことなどが短所である。そのため、角部やフランジ部における破損事例が多発しており、修理が難しく全交換となることも少なくない。これに対してPPは異方性がない等方性でありGFRPで有する問題は生じにくいため、水槽としては適する材質と言える。

A-1級ポンプ搭載で運用の幅をアップ

メインとなる水ポンプはA-1級の2段バランスタービンポンプだ。一般的なA-1級ポンプの約1.5倍の能力を有し、2台のポンプ車への送水が可能となっている。

一般的に大型のA-1級ポンプは全体が青銅製または鉄鋼製なので、かなりの重量となってしまう。そこで本車両では、ケーシングおよびインペラなどがアルミニウム製であるAL3000型2段バランスタービンポンプを採用することで大幅な軽量化を実現した。従来の「津消式」と同様、2段バランスタービンであるために、ボリュートポンプなどで問題視されている自然水利などからの高揚程吸水時においても十分なポンプ能力を確保可能となっている。

ポンプ水を用いて機関やPTOなどを冷却する冷却システムにも特徴がある。一般的に使われた冷却水は車両下部から放流されるが、本車両では冷却水還流装置を設けることで消火水としての再利用や、冬季には冷却水による路面凍結の防止にも効果がある。また冷却水還流装置には切替装置が設けられており、水槽水使用時は水槽への還流、外部水利使用時にはポンプ入口側への還流と選択することが可能になっている。

この大容量水槽とA-1級ポンプを備えたことで、さまざまな運用の可能性が広がった。一般火災時の単独放水や直近部署した車両への送水だけでなく、大規模火災時は水利部署した車両から受水し大容量ポンプを活用しての遠距離送水や2台への送水など、いわゆる水源車としての活用も可能となっている。

A-1級ポンプを備えることで余裕を持った放水・中継が可能となっている。
緊援隊出動を見据えて広いスペースの確保

大容量水槽を有している場合は、スペースや重量の関係で積載スペースを確保するのが困難となる。本車両ではボディ一体角型水槽の採用で水槽を短尺化、さらに前述のポンプ部や積載部などにアルミニウム材を多用することで軽量化し、大きな収納スペースを得ることに成功した。アルミニウム材は耐食性が低く、アルマイト処理材などで防食処理を行ったとしても、潮風や凍結防止剤に含まれる塩素分が浸入し強烈な腐食を生じる箇所があるが、端部まで十分に塗装を行うことで可能な限り耐食性を向上させている。

ポンプ部上部および下部スカートボックス、車両後部両側、車両後部、車上のアルミボックスにそれぞれ大きな収納スペースを有している。たとえば緊急消防援助隊出場時には、資機材搬送車にテント、調理用具、食品などのいわゆる共用資機材を積載するが、着替えや携行品などの個人装備を入れたリュックやボストンバッグなどの積載場所までは確保が困難な場合がある。本車両では個人装備を積載するため、車両上部に大型のアルミボックスを2基設けている。

積載スペースや重量の関係でホースの積載数が限られることが多いが、本車両では二重巻、ホースバッグ、ホースカーなどあわせて約50本も積載しており、多口や遠距離のホース延長にも十分に対応可能となっている。

本車両の外観的特徴のひとつであるキャブはアルミおよび鋼製ハイキャブとしており、車内で隊員が立てる室内高を有している。緊急消防援助隊出場時の居住性向上のほか、本車両を運用する中消防署がBC災害指定隊となっているため、車内で毒劇物防護衣などの装備を着装する必要があるからだ。

キャブ内にも積載スペースを十分に確保した。ハイキャブ内に設けられた収納スペースのほか、前列、後列それぞれ1名分の座席を減じて、前列2名、後列3名の定員5名として、空いた座席スペースの前列には通信機器類庫、後列には収納棚を設けている。これにより、一般災害活動用の資機材のほか緊急消防援助隊出場時の追加および携行資機材についても十分に積載可能となっている。

水利が不便な地域における大型水槽車として、大規模災害時における水源・大量送水車として、さらには緊急消防援助隊車両としても使用可能なマルチな車両に仕上がった。

側面
ポンプ部には上部棚に二重巻ホース15本、下部ボックスに二重巻ホース6本および即消用ホース筒先セットが収納されている。後部収納庫には油処理剤、ホースブリッジ、媒介金具、発動発電機および照明セットが積載されている。
ポンプ部は中央部にそれぞれの接続口、コック類および制御系があり、上部およびスカートボックス部に大容量の資機材積載部がある。
ポンプ制御は新型の日本機械工業製「AQUA VIEWER」。自動揚水や自動調圧のほか流量などのポンプ管理も行える。
切替装置付冷却水還流装置を設けてあり、水槽水使用時は水槽への還流、外部水利使用時にはポンプ入口側への還流と選択することが可能になっている。
ポンプ部には吸管があり、上部棚に二重巻ホース8本、ホースバッグ2基、下部ボックスに二重巻ホース6本および即消用ホース筒先セットが収納されている。後部収納庫上部は展開扉となっており、下部に発動発電機およびクラスB消火剤が積載されている。
展開式収納庫の表面側は管槍・吸水器具、裏面側は破壊器具・消火器が収納されている。
リア
後部には電動アシスト型加納式ホースカーを積載しており、ホース延長の省力化を図っている。
電動アシスト型加納式ホースカーの奥には、ラインプロポーショナー混合装置および発泡筒先を積載している。
ルーフ
ポンプ部上部にリモコン式照明装置を設置し、そのまわりに右側用吸管が積載されている。
上部のアルミボックスは主に緊急消防援助隊出場時に個人装備を積載する場所として使用される。その側面には2つ折りはしごおよびとび口が積載されている。
キャブ
ハイキャブとすることにより、キャブ内は隊員が立てる高さを有している。また通常の大型ダブルキャブの定員は7名であるが、前席2名、後席3名の計5名乗りとして、前席中央部には通信機器類、後席には中央部に資機材棚を設けている。
キャブ右側後方付近に外部電源接続口を有する。ここから供給された電源はオイルパンヒーターのほかバッテリー補充電機にも供給され、待機時の車両コンディションの管理が可能となっている。
バンパー部には耐荷重2tのフックが2個設けられており、大きな車両重量で安定した支点として使用可能である。その上部には大型青色デイライトが取り付けられている。
本車両を運用する津市消防本部中消防署のみなさん。
平子泰史

平子泰史津市消防本部 消防救急課 消防司令補

様々なアイデアを考え、メーカーと打ち合わせを重ねて本車両を完成させた。

【SPECIFICATIONS】

車名:日野
通称名:プロフィア
シャーシ型式:QDG-FR1APEA
全長:9160mm
全幅:2490mm
全高:3400mm
ホイルベース:5770mm
最小回転半径:7.9m
車両総重量:20875kg
乗車定員:5名
原動機型式:A09C<AT-Ⅸ>
総排気量:8866cc
駆動方式:6×2
ポンプ:A-1級(AL3000)
ホースカー:電動加納式
水槽容量:8000L
配備年月日:平成29年3月31日
艤装メーカー:日本機械工業

津市消防本部 中消防署[三重県]
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