30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁

日本の消防車両

30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁

要救助者を安心させる『先端屈折』の実力。

写真・文◎伊藤久巳
「日本の消防車2017」掲載記事

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鉄道高架、高速道に先端屈折は有効

東京消防庁では品川消防署に配備してきた30m先端屈折式はしご付消防自動車が更新時期を迎えたため、2016年3月26日に屈折部も伸縮する30m先端屈折伸縮式はしご付消防自動車に更新した。

「梯体の先端が屈折できたら…」

直進式梯体しかなかった20年近く前、多くの消防関係者にとって絵空事だった事が、1995年(平成7年)のマギルス製先端屈折式はしご車の登場によって現実のものとなった。東京消防庁が先端屈折式はしご車を導入したのは2001年(平成13年)のことだった(モリタ製を導入)。電線などの架梯障害に対する対応、フェンスを乗り越えられる優位性を考慮すれば、大都市東京に先端屈折式はしご車が有効なことは誰が考えても明白だった。同庁における1台目の先端屈折式はしご車が品川消防署に配備され、その後は配置転換されることもなく品川はしご隊が一貫してこの車両を運用してきた。

「先端屈折式の梯体は非常に有効だ。自分の経験でも、ダクトが延焼した駅ビル火災で、セットバックされた屋上にフェンスを越えてバスケットを降ろしたことがある。また、首都高速道路上の車両火災で道路外の地上から高架道路へと架梯し、フェンスを越えて消火活動にあたった活動記録もある。高層建造物はもちろん、新幹線を含む鉄道高架橋、高速道路が多く走る品川消防署管内では、先端屈折式は非常に有効な手段となる」

こう話すのは東京消防庁品川消防署はしご隊、消防司令補・岩下明広隊長(役職・階級は取材当時のもの)。岩下隊長はこれまで14年間にわたってはしご機関、はしご隊長としてはしご車に関わってきたスペシャリストだ。

「梯体が屈折することではしご車に対する考え方は大きく変わり、高所ばかりでなく低所に対して架梯できる可能性が大幅に広がった。直近部署した状態からの建物2階、3階への架梯も可能になるなど、戦術面でも屈折かそうでないかは大きく違ってくる」(岩下)

初めての配備から15年。同車は更新時期を迎えることになったが、東京消防庁が選んだのはやはり先端屈折式だった。15年の実車経験で実感した有効性を踏まえての選択だった。

30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
東京消防庁品川消防署に配備されたマギルス製30m先端屈折伸縮式はしご車。いすゞ「ギガ」シャーシをベースに、イベコマギルス社が梯体の艤装、モリタテクノスが細部の艤装を担当した。
先端屈折部をさらに長く

東京消防庁では先端屈折式をさらに一歩進めた。配備したのは、マギルス製30m先端屈折伸縮式はしご車。屈折部が2連構造になっていて伸縮する先端屈折伸縮式としたのだ。屈折部は1.2m伸梯し、屈折部の全長は4.7mに達する。

「ベランダや屋上からフェンス越しにバスケットに乗り移るのは、一般的に非常に恐怖を感じるものなので、屈折して屋上面等に直接架梯できる先端屈折式は要救助者に安心感を与えることができる。特に新型のはしご車は折ってから伸ばすことができるので、屋上面等により近づける可能性が高まった」(岩下)

屈折部の伸梯はわずか1.2mではあるが、消防活動においては「1.2mも」なのだ。

これに加えて新たに配備された装備が伸縮水管だ。

「梯上放水をする際、梯体に水路がなければ伸梯前に先端の放水銃にホースを接続したのち、伸梯する梯体にホースが絡まるのを防止するため、隊員が1名張り付いていなければならない。はしご隊は3名運用なので、その人員はポンプ隊から借りることになる。ところが、伸縮水管があれば車体後部の中継口にホースを接続するだけで、たちどころに先端での放水が可能になる。その際には、バスケットに装着されているモニターノズルも非常に有効で、基部操作台からのリモートでも自在に水を出せる」

これまでのモリタ製梯体との取り扱いの違いについて聞いた。

「バリオ式ジャッキなのでジャッキ設定は非常に早い。ただし傾斜矯正は梯体の旋回に追従して支持台を水平にする方式のため、旋回中に起伏角度が変化してしまう。対して、モリタ製の梯体はジャイロ式の自動矯正装置が一度矯正をとってしまうとターンテーブルが水平となるため、起伏角度も変化しない。双方に長所がある」(岩下)

シャーシはいすゞ「ギガ」3軸が選定され、マギルス製はしご車の大きな特徴となるバンパーの白色塗装も行われた。3軸ではあるが、マギルス製はしご車らしくコンパクトな車両となった。

「これまでの低床式シャーシからトラックシャーシに変わったことにより、全長はほぼ同じだが、ホイルベースが短縮され、取り回しが楽になった。乗車中の視点も高い。また、これまでは専用シャーシのため梯体とシャーシの長さはイコールだったが、トラックシャーシなので梯体先端のバスケット部が前方に飛び出すことになった。頭上の飛び出しは乗車隊員全員が常に意識していることもあり、特に車両取り回しの障害にはならないが、注意だけは常に喚起しておかなければならない」(岩下)

30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
マギルス製梯体はバリオジャッキで傾斜矯正をとるため、梯体基部がすっきりしている。
左側面
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
先端屈折伸縮式の長めの30m梯体に対し、シャーシは3軸ながらとてもコンパクトにまとまっている。
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
左側側面後部の資機材収納庫を開放する。その下部にはジャッキの敷板を収納する。
右側面
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
梯体は収納時に先端屈折部が直進部の前方に露出したままとなる。バスケットはシャーシの前方に完全にはみ出すスタイルとなる。
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
右側後部の資機材収納庫、梯台上にも資機材収納ボックスが設けられている。
リア
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
車体後面。左右にはアウトリガージャッキの操作盤、その中央に周囲照明、下部には梯体の伸縮水管へと繋がる中継口2門が設置されている。
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
後面中央の開き戸を開放すると、上段に中継水の放水/停止スイッチ、圧力計、下段にアウトリガージャッキの手動操作レバーが並ぶ。
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後面の左右に設置されたアウトリガージャッキの操作盤。これは左側にある左側ジャッキのもので、ジャッキ位置に緑灯が点灯し、前後ともジャッキが設定されていることを示している。
バリオ式ジャッキ
30m級先端屈折伸縮式はしご付消防自動車 東京消防庁
マギルス製梯体の特徴の一つ、バリオ式ジャッキ。車両や柵などの障害物をくぐって広く張り出すことが可能。最大幅は5200mm、最大傾斜矯正は10度、最大高低差は700mm。

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