富士山大規模噴火に備える<br>東京消防庁が生んだ“かつてない救助車”

日本の消防車両

富士山大規模噴火に備える
東京消防庁が生んだ“かつてない救助車”

Twitter Facebook LINE
火山灰にも傷つかない“目”
前線を支える装備力

ベースシャーシの選定について検討されたサイズは、住宅街においても活動できるよう、即応対処部隊で保有しているウニモグの高機動型救助車より全長、全幅、ホイルベースが小さい多目的型のウニモグを基本に検討した。

主要な機能として重要視したことは、フロントガラスの防傷措置だ。桜島の噴火で活動実績がある鹿児島市にヒアリング調査したところ、車両運行中にフロントガラスに付着した降灰を除去するためワイパーを使用することで、火山灰の主成分である鉱物がガラスを傷付けることが分かった。このことから、救出救助車(道路啓開型)では、フロントガラスに飛石用の防傷フィルムを貼付し、降灰中でも業務を継続可能な仕様とした。

東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
排土板は油圧アングリングプラウ・スチール製の脱着式。
積む、運ぶ、使いこなす
柔軟装備で即応出動

配置先の九本部ハイパーでは、火山災害のほか、林野火災、土砂災害など様々な特殊な災害に迅速に対応できるよう、災害種別ごとに資器材をカゴ台車に積載し、必要な資器材を都度、選択して出場している。そのため、救出救助車(道路啓開型)においてもカゴ台車を積載できる荷台、固定用のレール、昇降装置を設けている。

また、降灰中の活動において機動部隊員の安全性を確保するため、シャーシのアウターロールケージにガス検知器を固定できるボックスを装備し、車内から車外の環境測定が可能な仕様とした。

このほか、細部で装備にこだわった点がある。九本部ハイパーは土砂災害の専門部隊としても活躍している。多目的型のウニモグはシャーシの油圧発生装置を使用して油圧工具を稼働させることができるため、トレンチレスキュー等で使用することを目的に単管の杭打機や土砂用の排水ポンプを付属し、土砂災害の活動体制強化を図っている。

本車両は、降灰時における道路啓開作業を主任務としているが、その高い走破性と資器材積載能力により震災や水災のほか、大雪や土砂災害など、あらゆる災害で活躍することが期待されている。

東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
車両上部には周囲を照らすLED式の電動サーチライトを2基装備し、夜間活動の向上を図っている。荷台には、耐久性および耐候性を有する脱着式の幌を装備している。
東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
圧縮空気取出装置を装備し、圧力800kPa、エアーダスタ、タイヤ空気充填用がある。エアーダスタは、窓ガラス等に付着した火山灰等の除去に活用される。
新たな挑戦が価値ある1台を生んだ

今回製作した救出救助車(道路啓開型)は、火山災害における道路啓開活動という同庁で前例のない新たなコンセプトの車両製作となった。契約会社の担当者のほか、関連する企業の設計者や技術者、製作者の技術力を結集することで導入することができた。『優れた車両は、現場職員のモチベーションを高める』とよく言われているが、今回の車両製作に携わった企業の方々からは、「新たな試みが多くある車両製作で社員の意欲も高まった」と聞いており、東京消防庁に価値ある1台が誕生した。

東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
排土板を左右斜めにすることで、堆積物やがれき等を路肩に寄せて道路啓開を行う。
東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
機関員の身体的負担を軽減するためにも通常走行時は、排土板を荷台や別の資機材搬送車等に積載して移動する。駆動方式はフルタイム四輪駆動車で、前部二輪、前後輪および後部二輪のデファレンシャルギヤのロック機構を有し、走行中に切り替えることが可能。
東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
東京消防庁 第九消防方面本部消防救助機動部隊 救出救助車(道路啓開型)
左右可変式ステアリング(バリオパイロット)を装備し、排土板を左右の障害物に合わせる際、繊細な操作が可能となっている。取り扱いも左右にスライドするだけで、スムーズに行うことができる。クラッチペダルは格納式。変速機は前進16段、後進14段の副変速機付きで、状況に応じたギア選択を可能にしている。
さらに車両の詳細を知りたい方は「日本の消防車2026」にて!
東京消防庁は富士山大規模に備え2025年(令和7年)3月7日、第九消防方面本部消防救助機動部隊に「救助救助車(道路啓開型)」を配備した。
写真◎編集部 日本の消防車2026掲載記事