40m級はしご付消防自動車 <br>山武郡市広域行政組合消防本部

日本の消防車両

40m級はしご付消防自動車
山武郡市広域行政組合消防本部

山武郡市広域行政組合消防本部 中央消防署[千葉県]

写真・文◎橋本政靖
日本の消防車2021掲載記事

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はしご車でバス型!?
収納ボックス、アウトリガ等……新機能満載の国産はしご車登場

2020年(令和2年)2月4日、山武郡市広域行政組合消防本部(以下、山武消防)に新型の40mはしご付消防自動車が更新配備された。(取材当時)

本車両は消防職員の各種要望と日本機械工業の創意工夫力により以下の4つの大きな特徴と初装備、さまざまな工夫を満載して完成している。

【主特徴】
①バス型キャブ
②可動式資機材収納庫
③アウトリガ・ジャッキシステム
④ジャッキ矯正・リング併用傾斜矯正機能

40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
全起立・全伸梯では最大地上高40.2mとなる山武郡市広域行政組合消防本部に配備された日本機械工業のバス型はしご車。
バス型キャブの採用

本車両の特徴の一つは、外観でもわかるようにバス型キャブを採用したことである。山武消防ではこれまでもバス型救助工作車、化学消防ポンプ自動車などを導入しており、今回もバス型キャブを検討していた。しかし、はしご付消防自動車ではキャブ上部に梯体が収納されることや後部の装備などの配置から難しい案件であった。

はしご車専用シャーシの専用キャブは、キャブ後部にエンジンおよびミッションを設けることで室内高を確保しているが、大幅な改造を伴うために非常に高価なものとなり、整備性なども決してよいとは言えなかった。これに対して、一般のトラックシャーシでは価格や整備性の点ではよいが、キャブ下にエンジンやミッションがあるためにどうしても室内床の高さが上がってしまい、上部には梯体があるため確保できる屋根高さに限界があり、室内高自体を稼げない問題がある。そのため、シングルキャブシャーシ後部にシャーシフレーム直上のなるべく低い位置を床面とするバス型の後部キャブを設けることで実現している。

車両左側には後部乗降用のバス様の折戸ドアが設けられており、右側は窓のみとなっている。室内は4名分の折り畳み式乗車座席が設けられており、座席を折りたたむことでスペースを設けることができ、バス型特有の高い室内高とあわせて乗車以外にもさまざまなシチュエーションで使用可能となっている。

40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
アウトリガー・ジャッキは通常は全伸状態(上写真)で設定するが、狭隘場所などでは全縮状態(下写真)での設定も可能である。
可動式資機材収納庫を採用

はしご付消防自動車ははしご装置がメインであり、その重厚な梯体、周辺機器および動作範囲に障害となるために大きな資機材収納スペースを設けることが困難であった。梯体を低起梯角度やマイナス角で左右に旋回した際に、側面に大きな資機材収納庫があると干渉してしまうためである。しかし、様々な活動を行う場合には各種資機材を積載したいという要望は強い。そこで本車両ではこの問題を解決するために、大型資機材収納スペースを有しながら、はしごを使用する際には梯体の障害となる部分が自動的に移動する可動式資機材収納庫を採用した。

40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
3.5度以上の場合には基台部下部の傾斜矯正リングにより矯正が行われる。
様々なモードで使用可能

はしご付消防自動車でメインとなる梯体はトラス構造の5連式であり、プラス75度からマイナス10度まで、最大地上高は40.2mとなっている。この梯体にはリフター装置、先端にはオーバーラップ式常時装着型バスケットが取り付けられている。バスケットには最大4000Nまでの許容荷重があり、使用状況に応じて400Kモード、270KモードやB/L(バスケット・リフター)モードなどへの切り替えが可能である。まず、400K(4000N)モードではバスケット内3名+装備品(資機材等)、270K(2700N)モードではバスケット内3名、B/Lモードではバスケット内2700N(3名)とリフター1800N(2人)となっている。

梯体の操作は伸縮、起伏、旋回をジョイスティックにて従前のようにそれぞれ行う以外に、水平モードおよび垂直モードとすることで自動的に位置を調整して建物等に沿って動作させることも可能である。また、梯体には制振装置が装備されており、特に伸梯長が長い場合における梯体の揺れを早期に減衰させ安定した活動を行うことが可能となっている。リフターは1800Nタイプの2名搭乗が可能であり、目標地点に架梯後は梯体を作動させることなく人員の昇降が可能である。また、バスケットとリフター同時使用が可能であるため、高所からバスケットで救助した要救助者をリフターで地上に連続的に救助することが可能となっている。

40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
アウトリガー全縮状態でその場でジャッキを設定できるため、狭隘場所に部署した際にも有効な活動が可能となる。
ジャッキ矯正・傾斜リング併用矯正方式を採用

次に車体を支えるためのアウトリガー・ジャッキのシステムについても特徴がある。近年のシャーシは排ガス規制など様々な問題のためフレームにいくつかの加工が施されている。そのため、従来のようにシャーシのメインフレームに直接アウトリガーを取り付けてジャッキアップすると、フレームに対して想定外の応力が発生してしまう。そこで本車両ではメインフレーム上にサブフレームを設け、そこに直交式アウトリガーを取り付けている。これによりシャーシフレームを安定的にジャッキアップすることが可能となっている。このアウトリガーは張出幅を8段階に設定でき、張出幅に応じて作業半径は自動的に設定される。また、狭隘路や障害物がある場所に部署する際等、アウトリガーを完全張出とすることが困難な状況においてはアウトリガーを張り出さずに真下にジャッキを設定することも可能である。この状態でも作業半径は制限されるものの全伸梯は可能となっている。

また、本車両のアウトリガー・ジャッキは従来と異なり車体を完全に持ち上げる構造となっており、ジャッキ以外のタイヤなどすべては地面から離れる構造である。そのため、地面に対してサスペンションやタイヤの反力が生じず、車両重量すべてを安定側のウエイトとして使用することが可能となっている。

伸梯する際に梯体が横方向に傾いていると、梯体にねじれ応力が生じ、梯体基部を水平にする傾斜矯正が必要となる。これまでのはしご付消防自動車では、傾斜矯正でリングターンテーブルを水平にする方法または梯体支持台を油圧シリンダで水平する方法のいずれかの傾斜矯正方法が用いられている。本車両では新しい傾斜矯正の手法としてジャッキ矯正と傾斜リング矯正を併用している。流れとしては、まずアウトリガー・ジャッキが伸長・接地し、車体が若干持ち上がった時点で車体の傾斜を検知し、ジャッキ伸長量を調整して水平への傾斜矯正を行う。このジャッキ矯正では3.5度までの傾斜の矯正が可能となっている。このため、ほとんどの場合は車両を停車させてアウトリガー・ジャッキを設定した時点で矯正が完了しており、伸梯が可能となるため迅速な活動が行える。これ以上の傾斜の場合には、ターンテーブル下部の半割の傾斜矯正リングによりさらに3.5度まで傾斜矯正を行ない、ジャッキ矯正と合わせて7度までの傾斜矯正が可能となる。これらの車体完全持ち上げおよびジャッキ矯正方式は同社のΣ型屈折はしご付消防自動車において長年使用されており、狭いアウトリガ張出幅や迅速な矯正などの実績がある。

部署してからはしごを使用する流れとしては、部署位置決定し輪留めを設定して車両後部操作盤にてアウトリガー張り出し幅設定すると、アウトリガー張り出し、ジャッキ伸張・接地、ジャッキ矯正(必要に応じて追加でリング矯正)、ジャッキによる車体完全持ち上げ、梯体若干伸長、バスケット展開が自動的に行われる。これまでにない新機能ではしご車の運用がどう変わるのか、期待は高まるばかりだ。

40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
40m級はしご付消防自動車 山武郡市広域行政組合消防本部
アウトリガー・ジャッキにより車体を完全に持ち上げる機構のためタイヤはすべて地面から離れる。

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右側面・左側面 他

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