水槽付消防ポンプ自動車I-B型
大島地区消防組合名瀬消防署
大島地区消防組合 名瀬消防署住用消防分駐所(鹿児島県)
写真・文◎伊藤久巳
日本の消防車2018年掲載記事
初動30分は俺たちに任せろ!
ファーストアタック特化隊の「高床式」全天候対応車両
どんな災害でも3名出場体制
鹿児島県奄美群島の奄美大島、喜界島などを管轄する大島地区消防組合。その名瀬消防署住用消防分駐所では、水槽付消防ポンプ自動車I-B型を更新配備した。いすゞ高床4WD、11トン級シャーシをベースに日本機械工業が艤装を担当。2016年(平成28年)11月27日に配備され、2017年(平成29年)1月30日に運用開始した。車体には「奄美市消防団 住用方面隊」と記されている。というのも、同分駐所では救急車は常備配備で、ポンプ車等の消防車は非常備配備と位置付けられ、その枠組みで予算が確保されているからである。またシャーシが高床タイプなのは、水害による道路冠水に対応するためである。
住用消防分駐所は名瀬消防署本署がある奄美市の中心市街地から車でおよそ30分の南西部に所在し、山あり海ありの住用地区(旧住用村)を管轄する。大島地区消防組合は、救急隊を全署所に置くことを主眼に組織がスタートしているので、部隊配置が救急隊ベースになっている。そのため交替勤務員は甲番、乙番とも3名という消防分駐所が珍しくない。ここ住用消防分駐所もその一つで、当務員は3名しかいない。
その3名で救急事案はもとより、それ以外の火災、救助事案など管内すべての事案に出場しなければならない状況に置かれている。そこで、同所では今回の更新を機に新たな考え方による出場体制を考案した。
その考え方とは、全災害対応&初期活動分隊「ADRFAS(アダファス:All Disaster Response & First Attack Squad)」。
当務員3人ですべての災害に対応できる能力、資機材を保有することは費用対効果の観点からも難しいが、住用消防分駐所隊の現着後30分で、必ず名瀬消防署本署から消防隊、救助隊などの後着隊が到着するので、住用分駐所隊は現着後30分の初期活動に特化するファーストアタックのスペシャリストと位置づけた。これが車両の計画、設計に大きく影響することになった。
住用ならではの資機材の数々
アダファス運用の車両は、建物火災、林野火災、管内でしばしば発生する道路冠水などの水害、水難救助、多数傷病者事案、さらには世界自然遺産登録を控えての山岳救助など、起こりうるすべての災害での初期活動を念頭に置いた構造と、資機材の積載を検討しなければならない。なお、奄美大島島内では中型免許までしか取得できないため、車両は隊員が中型免許で運転できる11トン未満が条件となる。
車両の根幹となるポンプ装置はパワーのあるA-1級を搭載した。これは水害に対応するためだ。これにより1分間あたり2800リットルという排水能力が備わった。もちろん、これは火災事案でも非常に有効で、1台で2線中継も優に行えるため、応援隊到着時にも柔軟な消火体制をとることができる。
アダファス3名の消火活動時のそれぞれの動き方は事前に決まっており、そのための装備もある。部署後、隊長はホースカーを引いて火点へ向かい、1番員は別のホースカーまたは手延ばしにより隊長に向かってホース延長する。そのため車両にはホースカーを並列に2台積載している。そして機関員が水利へ簡単に吸管を延ばせるよう、吸管はサイドプル式巻き取り吸管を採用。これは11トン未満という軽量化にも役に立っている。これにより現着後わずか2分ほどでホース延長が完了し、1線2口の放水隊形ができ上がる。
救助の3人対応用には、あおりに設けられた三方ローラー、後面に設けられたロープウインチがある。三方ローラーはあおり部分に荷重をかけずに高取り支点を取るための装備で、車両を貫いた反対側に支点を取り、ロープを左右の三方ローラーに通す。また、水難救助用のゴムボートを積載したトレーラーを牽引することによって1隊運用が可能になる。
山岳救助用にはクローラー式運搬車も備え、これもトレーラーに積載して牽引する(最大延長12メートル未満なら牽引免許は必要ない)。
高床4WDの背の高い車体、白く塗られた車体裾、メッキが多用されたダブルキャブ。デザインは分駐所の隊員全員から公募されて決められたという。こうして誕生した水槽付消防ポンプ自動車I-B型。車両名だけでこの車両を想像するのは難儀なほど、特徴満載の車両である。
フロント
車上
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右側面・左側面・リア 他