支援車Ⅲ型 能美広域事務組合消防本部
能美広域事務組合消防本部 寺井消防署根上分署[石川県]
写真・文 ◎橋本政靖
Jレスキュー2016年1月号掲載記事
多機能な車両を目指す
能美広域事務組合消防本部は石川県西部に位置する能美市および能美郡川北町の1市1町で構成され、99平方キロメートル、5万6000人の安全を1本部3課1署3分署73名の体制で守っている。管内は金沢市のベッドタウンとしてだけでなく、製造企業が立地する工業地域としても発展している。
今回管内の災害対応能力をより強化する目的で導入した支援車Ⅲ型は、Ⅲ型の本来の役割である人員搬送以外にも資機材搬送や水難救助活動、現場指揮所など多種多様な災害・用途に活用できる多機能車両を目指して製作した。
製作にあたって同本部が強く希望したのが以下の要素だった。
- 各種資機材をカーゴラックのまま積載できること
- 車両サイズはできるだけ小型化すること
- 緊急消防援助隊出場時以外にも多目的に使用できること
- 車内は人員搬送以外にも打ち合わせや仮眠ができる構造とすること
- 水難救助活動に使用できるように床面を水洗い可能にすること
- 後部収納庫にウエットスーツを吊り下げられる構造にすること
支援車Ⅲ型の規格でこれらの要望を満たすべく、受注した本田商会から提案を受けながら十分に検討を重ねていった。
6t級シャーシ+バンタイプボディ
支援車Ⅲ型の主な要件には、乗車定員20名以上で座席は一部跳ね上げまたは取り外し式、車両後部に資機材積み下ろし用の扉を設け、AC100Vのコンセントを設ける、などがある。車体は四輪駆動のマイクロバスをベースとし、最後列のいす部分を積載スペースとし、リアに観音式扉を設けたタイプが多い。しかしマイクロバスベースの改造型の場合、そのボディを流用せざるを得ないため様々な部分で制約が生じ、同本部の希望要件を満たす車両にするのは困難だった。そこで同車は救助工作車やタンク車などに広く用いられる6t級低床四輪駆動シャーシをベースとし、ボディ構造には支援車Ⅰ型などで用いられるバンタイプを採用した。
これにより一般的なマイクロバスベースの室内寸法が幅1850mm×長さ3800mm×高さ1850mm程度なのに対して同車は幅2170mm×長さ3850mm×高さ1850mmと、広いスペースを確保できた。座席もマイクロバスベースの場合2席+1席+補助1席の4列シート(ドア部分についてはいす無し)が一般的だが、同車は2席+2席+補助1席の5列シート(ドア部分についてはいす無し)となっている。座席は背もたれを移動させることで移動時は前向き、打ち合わせ等では対面、休憩時はベッドと3通りの使い方が可能だ。各いすの脇にはAC100Vのコンセントも設置している。
資機材積載スペースを設置
資機材については、マイクロバスベースの場合は最後尾のいす2列分のスペースに収納するのが一般的だが、同車は後部の資機材積載スペースにカーゴラックで積載する方式とし、最大積載量2250kgを確保した(ただし後部積載スペースに資機材を積載する場合、乗車定員は14名になる)。ここにも折りたたみ式3人掛けのシートを対面で2組設けているので、最大6名まで乗車が可能だ。最後尾には幅2100mm×奥行1020mmのパワーゲートを装備し、カーゴラックや重量のある資機材の積み下ろしに威力を発揮する。同スペースは緊急消防援助隊出場時には資機材積載スペース、多人数搬送時には乗車スペース、長時間におよぶ災害活動時には休憩スペースとしてまさに多目的に使用できる。水難救助活動に出場する際は天井部に設置したパイプにウエットスーツ等を吊り下げられるほか、ウエットスーツへの着替え場所としても活用できる。床面は水洗可能な防水床とし、排水穴を設けて水難救助や災害等で床面が汚れても洗い流せるようにした。
右側面
支援車Ⅴ型の必要性
様々な災害を想定し、使い勝手のよさを考え抜いて製作された同車は、支援車Ⅲ型というよりは支援車Ⅰ型(いわゆる消防用キャンピングカー)とⅡ型(資機材搬送車)とⅢ型(人員搬送車)の機能を兼ね備えた多機能車両といえる。大規模な消防本部では役割ごとに車両を運用するための財源や人員を確保できるが、小規模な消防本部ではそれらの確保が難しい。同車のように多目的な車両を例えば支援車Ⅴ型として国庫補助規格に新設し、中小消防本部向けに配備してもいいのではないだろうか。
左側面
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車内・リア・資機材積載スペース