
救助工作車Ⅱ型
村山市消防本部
村山市消防本部 村山市消防署[山形県]
写真・文◎小貝哲夫
日本の消防車2019掲載記事
手作りのアイデア満載
兼任の隊員全員が使いやすい救工
3年かけて磨き上げた仕様書
2017年(平成29年)12月5日、村山市消防本部は救助工作車を更新し村山市消防署に配備した。村山市は山形県のほぼ中央に位置し、東西22km、南北15kmの東西に長い形をしている。東を奥羽山脈、西を出羽丘陵に囲まれ、中央を最上川が蛇行しながら流れ、流域には肥沃な土地が開けている。気候は典型的な内陸型で、夏は暑く冬は零下15℃を下回ることもあり、夏冬の温度差が大きい。
村山市消防本部は村山市消防署1署で全域をカバーし、隊員は消防隊、救助隊、救急隊のすべてを兼務する小規模本部だ。現在建設中(取材当時)の東北中央自動車道が完成すれば、これまで以上に交通事故の増加が懸念される。そのため、本車両の更新にあたって、交通救助対策を充実させた。
1995年(平成7年)に配備された先代の車両は11tを越えていたので、機関員は大型免許保有者に限定されていた。また積載スペースが固定されていたため、資機材を更新したり追加した場合に載りきらない場合もあり、事案に応じた資機材の乗せ換えにも苦慮していた。市内の道路は起伏に富みカーブも多い。特に冬期は路面凍結するため、転倒の危険性も考慮して慎重な運転が求められていた。
こうした課題をベースに、救助隊長の石川直人消防司令補、大地紘太消防司令補を中心に仕様書が作成された。実は平成26年には仕様書は完成していた。しかし予算が付かず、導入は延び延びになっていた。これが好結果をもたらすことになる。予算化が承認されるまでの3年間、大地隊長は県内外から積極的に情報収集を行い、仕様書を磨き上げた。また、全署員にアンケートを行い、新救助工作車の要望も取りまとめた。導入したい資機材や新製品があれば、積極的に業者と連絡をとり、デモンストレーションを依頼し、実際に見て確認していった。資機材選定のポイントは、性能の高さに加え、少人数で設定できるかどうか、現場で使いやすいかどうかといった村山消防の地域性と組織特性に適合するかどうかである。その結果、当初予定していた資機材から大きく変わったとい
う。
一方で新たな悩みも浮かび上がった。平成29年から排ガス規制に適合した新シャーシが登場し、以前なら資機材庫として活用してきた右のスカートボックスが一つ使えなくなることが判明した。新シャーシのメリットは走向性能が向上し、環境に優しい仕様になること。時代のニーズに合致しているので、新シャーシの採用を決めたが、スカートボックスの対応については最後まで業者と折衝を続けた。


右側面

左側面

低コストの手作りアイデアが満載
新車両の選定にあたり明確にしたコンセプトは、全員が使いやすく、活動動線を考慮した車両であること。村山消防は全員が兼務隊員であることを考慮し、誰が使っても分かりやすく、間違えないことを考え抜いた。事案に応じた隊員動線を考え、隊員の安全確保も考慮しながら様々な点に配慮した。
機関員への配慮は、メインスイッチを左側から右側に移動して独立させ、夜間時でも他のスイッチと間違わないように変更することであった。また輪止めは下車後、すぐに設定できるように先端を削り、即消ボックスの幅に合わせることで、無駄のない導線を確保した。
隊員の動線も考慮しており、資機材の収納は事案ごとにグループ化し、近い場所に集中積載することで資機材準備の効率化を図った。特に出動の多い交通救助資機材は左側に集中させた。
ロープは吊り下げ式として収納することが多いが、奥のロープが取り出し難く、その長さも分からないことがある。対策として引き出し式レールにロープを平置きにすることにし、取り出しやすく、長さも分かりやすくなった。一方、取り出しに問題のないスリング類は従来通り縦吊りにした。
さらに雪害事案対応の資機材など、季節の災害事案に応じて積載替えできるようフリースペースも設けた。このスペースには水難救助用資機材やNBC災害対応資機材などの収納を想定している。
また積載庫に写真プレートを貼ることで、どこに何を収納するのか、棚扉越しにも資機材の収納場所が一目瞭然になった。折りたたみコーンの先端には、引き出しやすいようにループを取り付け、積載するコンパネには運びやすいよう取っ手を作るなど、既製品に一手間加え使いやすくしている。コストのかからないきめ細かい配慮を盛り込んだ。
課題だった排気ガス浄化装置が占拠するスカートボックス対策は、ボックス内の温度変化を計測して適した資機材を探り、隙間に積載スペースを確保した。
左側面









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少人数でも設定可能な資機材を厳選