ECMOカー 前橋市赤十字病院
前橋市赤十字病院[群馬県]
写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2019年5月号掲載記事
トラックベースで大量搬送!! もっと安心できるドクターカーに
ECMOに対応できる日本初のドクターカー
前橋赤十字病院は2t級トラックベースのドクターカーを平成30年3月に導入。すでに運用開始している救急車タイプのドクターカーとあわせて、2台での運用を開始した。この新ドクターカーは日本で初めて、ECMO(体外式模型人工肺)搭載に対応した車両になっている。
近年、病院機能の細分化によって病院間の患者搬送は増加傾向にあるが、前橋赤十字病院はいち早く地域連携に取り組んでおり、「地域病院救急車」としてドクターカーによる転院搬送のケースが増えている。病院に隣接する前橋市消防局でも「転院搬送ガイドライン」を設け、この需要に対応してきた。
重症呼吸不全患者の命を救うECMO
ECMO(模型人工肺)とは、Extracorporeal Membrane Oxygenationの略称で、重症呼吸不全患者に対して人工心肺により呼吸や循環を補助し、患者の循環回路が回復するまで使われる。ECMOの必要な患者の搬送の場合、救急車タイプのドクターカーでは車内スペースが圧迫され、他の救急資器材を載せられないばかりか、同乗する医師たちの活動スペースもなくなるため、資器材搬送用の車両を別に用意して2台で対応してきた。また電源も300Wしか供給できず、多くの資器材を使用できなかった。
そこで新病院への移設を機に、平成28年初旬、新ドクターカー導入についての検討が始まった。コンセプトはシンプルで「ECMOを搭載可能な車両」。既存の救急車タイプよりも大型のトラックベースを検討し、すでに同様のドクターカー導入実績がある他施設からの情報収集を開始した。
2台のドクターカーを用途に応じて使い分け
運用目的は、①ECMOを搭載できるドクターカーとしての運用、②災害時に出動可能な救急搬送車両としての運用、③地域の救急車の搬送を代行する地域病院救急車としての運用の3点。平成29年5月には院内ワーキンググループ(医師、看護師、臨床工学技士、事務からなる総勢11名)を立ち上げ、仕様の詳細検討に入った。またモバイルECMO導入にあたっては、臨床工学技士の意見も参考にした。ECMOは重傷呼吸不全や心不全患者を安全に運ぶために欠かせない装置だが、扱いには高度な技術と専門性が必要になるからだ。さらに運用目的の②を具体化するため、DMATや災害派遣時に必要な衛星電話や消防無線への対応を決定した。
検討の結果、ドクターカーとしての導入実績のある赤尾のトラックベース特殊救急車Tri-Heart(高規格救急車 準拠)が選定された。ベース車体はいすゞのエルフ4WDでエアサスが標準装備、災害出動を想定してサイドタープも装備されている。室内高は180㎝あり、ストレッチャーの両サイドに各50㎝以上の医療活動空間を確保しているのが大きな特徴だ。
さらにメイン電源で1500Wを確保、バッテリー方式の別系統で1500Wも確保し、ECMO機器などの消費電力の高い機器にも対応できる。ストレッチャーはFERNO社製で、アタッチメントにECMO、IABP、人工呼吸器、生態情報モニター、輸液シリンジポンプ、除細動器、酸素ボンベを搭載しながら、最小人数2名で搬送可能だ。
ECMOのコンソールは小型で、回路内圧2チャンネル、脱血側酸素飽和度のモニタリングが可能な泉工医科工業のUNIMOを導入。車載にも対応可能だが、基本的には院内と共有している。
現在の運用は、既存の旧ドクターカーは従来通り医師が同乗した患者の転院搬送、新ドクターカーは補助循環機器が必要なECMOにくわえIABPの患者搬送や地域病院救急車としての患者搬送と、新旧2台のドクターカーを使い分けている。
装備
資器材収納可能な ストレッチャー
【SPECIFICATIONS】
車名 いすゞ
通称名 トライハート
シャーシ形式 TKG-NPS85AN(改)
全長 5970mm
全幅 2080mm
全高 2850mm
ホイールベース 3415mm
最小回転半径 6.4m
車両総重量 5700kg
駆動方式 4×4
配備年月日 平成30年6月3日
艤装メーカー 赤尾