火災調査車 <br>川口市消防局

日本の消防車両

火災調査車
川口市消防局

川口市消防局 北消防署[埼玉県]

写真・文◎小貝哲夫
日本の消防車2020掲載記事

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機能美をハイエースに受け継ぐドラフトシェルが登場!

広い車内を資器材庫とプライバシー保護に活用

消防車のハイルーフで新機能を提案し続けるベルリングが開発した「DS(ドラフトシェル)シリーズ」。いすゞ・日野のトラックシャーシに続き、トヨタハイエースへの搭載のためにデザインされた「HDS(ハイエースドラフトシェル)」を搭載する第1号車が平成31年3月27日、川口市消防局に配備された。同局の火災調査車である。

先代車両は救急車と同じ構造を持ったワンボックスタイプのハイルーフ車だった。資器材を積載する専用棚はなく、平積みで積載していたため、現場で必要な資器材を取り出すときには、他の資器材を降ろしてから取り出すというケースも多々あった。また車内を移動するときは隊員が屈む必要があり、余分な労力を強いられていた。

さらに、火災調査業務では罹災者から聞き取り調査をするが、火災現場で実施するには、プライバシー保護という観点からも、スペースの確保が困難であり、常に検討課題となっていた。

同年に川口市消防局ではいすゞ・フォワード消防車用ベルリング社製FDSハイルーフの採用があり、艤装担当者と打合せ中、トヨタハイエース用のドラフトシェル「HDS」を開発していることを知った。DSシリーズならば軽量で車内スペースを拡大し、屈むことなく車内を移動することができる。また単にルーフを高くするだけの構造ではなく車幅を若干拡げ、ラック等を効率よく配置すれば、車内空間を最大限に活用した資器材配置が可能となり、罹災者へのプライバシー保護が可能なスペースも確保できると判断した。

火災調査車 川口市消防局
ハイエースに新開発ドラフトシェル「HDS」を初めて搭載した車両が完成した。
罹災者に配慮できる車両

川口市消防局の火災調査係は、1班4名の2交代制であるが、新しい火災調査車が配備されてからも数々の火災現場に出場している。火災は夜間や雨天、低温下など様々な環境でも発生するが、そんな厳しい環境でこそ、新しい火災調査車は機能を最大限に発揮することができる。

ベース車には、トヨタハイエース・キャンパー特装車・スーパーロング・ワイド・スーパーハイルーフシャーシを使用し、運転席側の側面をFRPで一体型張り出しとすることで室内空間の拡充を実現。スライドドアは左側面だけとしたが、そのぶん奥行きを有効に活用することでスペックアップを実現した。また、フロントおよびサイドの赤色灯内蔵部分にはDSシリーズの特徴でもあるメッシュパネルを採用した。

車内には、多数の資器材が積載できるよう、キャブ後方の左右に棚を設置。シートは罹災者への聞き取りができる簡易的な対面シートを採用。前席を前に倒すことで簡単な即席シートが現れ、間にテーブルを挟みながら聞き取り調査を行える応接スペースが生まれる。さらに、車内で警察官等と合同で聴取を行えるので、聴取の重複を避け、罹災者の負担を軽減することができる。もちろんエアコンも効く環境で、フロントウインドウ、サイドウインドウに設けたカーテンを閉め切れば、外部から完全に遮断でき、罹災者等のプライバシーを守ることが可能である。安全確保のため、車体の前後左右に4つのカメラを取り付けており、聴取時等に車両周辺の様子を常時画面に表示している。

車内にはノートパソコンとプリンターを搭載しているので、その場で聴取した書類等を作成し、罹災者の署名を即時受けることが可能だ。車内照明にも気を配り、室内灯以外に角度を調整できるLED灯も装備。作業時に手元を照らし、相手に眩しくない方向に変えることができる。

火災調査車 川口市消防局
ドアのスライドレールを取り囲むようにルーフはオーバーハングしている。
地味だった火災調査車が一躍主役に!

車両後部のスペースは、書類や工具などを効率よく格納し、取り出しやすいよう工夫している。旧車両では収まる場所がなかった高所撮影カメラ用のブームポール、そして踏み抜きや燃え抜けがある火災現場で重宝するアルミ製敷板等の長尺な資器材を収納する専用スペースも作られている。

後部シート横のスペースには、情報共有用のホワイトボードを設置。あえて室内据え置き型にしたことで、部外者に対する秘匿性を高めている。車内にコンセントを多く取り付け、携帯電話やパソコン等の電子機器も使用可能である。

数ある消防車両の中でも地味な存在の火災調査車であるが、最新のベルリング社製ハイエース用のドラフトシェル「HDS」をチョイスしたことで、個性的で実用性の高い車両が誕生した。

火災調査車 川口市消防局
スライドドアがない右側は、ウインドウを潰してドラフトシェル効果を最大限に引き出した。平滑な面にホワイトボードフィルムも貼付可能。
火災調査車 川口市消防局
角を張り出し中央のメッシュパネル内に赤色警光灯をレイアウト。ドラフトシェル「DS」共通のデザインで新しいハイエース像を造り出した。
火災調査車 川口市消防局
角張ったデザインは、室内スペースを最大限に活用するために生まれたもの。
火災調査車 川口市消防局
右側面はルーフと一体化したデザインで、車内スペースを拡張した。
火災調査車 川口市消防局
スライドドアがある左側面は、ハイエースのオリジナル機能を尊重したデザインになっている。

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