救助工作車Ⅱ型 笠岡地区消防組合消防本部

日本の消防車両

救助工作車Ⅱ型 笠岡地区消防組合消防本部

笠岡地区消防組合消防本部 笠岡消防署 [岡山県]

写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2017年5月号掲載記事

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日本初! 夢の「全部載せ」救助工作車

目指したのは「オールマイティーな多目的型」
救助工作車
日野「レンジャー」5.5t級シャーシをベースに、重量増に耐える強化サスペンションを採用し、救助工作車Ⅱ型でありながら450L水槽を持つ驚きの車両に仕上がった。緊急消防援助隊出動時の長距離走行を考慮して100L燃料タンクを積載。

笠岡地区消防組合消防本部では平成28年12月5日、笠岡消防署の救助工作車を16年ぶりに更新、今年1月1日に運用を開始した。近い将来の発生が予期されている南海トラフ巨大地震に備えるため、東日本大震災での教訓を踏まえて「多目的型」の救助工作車を目指した。

同本部が目指した「多目的型」とは、救助工作車Ⅱ型に通常搭載されるすべての装備を備え、さらに各種火災で必要に応じて放水するためのタンクを備えていること。この考えを草案から設計へと強力に推し進めポンプ装置も水槽も装備する救助工作車Ⅱ型が誕生した。

救助工作車、それも救助工作車Ⅱ型の製作基準を満たし、ウインチ、クレーンを装備した上で、ポンプ装置も搭載、さらに水槽まで搭載するとなればシャーシを大型にするのが無難な選択だろうが、市街地を抱える消防本部だけに、ごく一般的な5.5トン級シャーシにおさえたい。そんな難題が簡単に解決するわけがなかった。

クレーン操作などの車体後方での活動時、視界を阻むクレーン側面のあおりは無くした。このため、クレーン装置がむき出しになっている。
エンブレム
後部ドアには笠岡市のマスコットキャラクター「カブニくん」を使用したエンブレムを装着。
情熱が生み出したスペース

救助工作車のすべての性能に加えてポンプが欲しい、水も欲しいというのは誰もが考えることだが、それでも過去に例がないということは、実現が難しいということである。案の定、艤装を担当したモリタは、ポンプはともかく、水槽までは無理だと難色を示した。Ⅱ型の要件を満たす救助工作車に、そんなスペースはどこにもない。

だが、同車の設計・製作を担当した松井新治消防司令は、艤装担当者に食い下がった。たとえ100リットルでもいい。水なくしては多目的型の車両は実現しない。

この段階でわずかな光が見えたとすれば、それはポンプ装置にCAFSを用いることだった。CAFSであれば、水槽が100リットルの小容量でも、泡吐出量は2000リットル近くになる。初期消火や警戒筒先に利用することを考えればなんとか実用に足る。同本部はポンプ車、タンク車のCAFS導入率100%。同車にポンプ装置を搭載するとなれば、戦術的にもCAFS導入は既定路線だった。これが功を奏した。

しかし重量のある水槽は、前後の車軸間に収まらなければ、走行安定性が著しく損なわれてしまう。すでにそこにはポンプ装置を搭載していたうえ、重量資器材の積載位置でもあった。同本部はそこをなんとかこじ開け、モリタも懸命に車軸間のデッドスペースを探し出した。

やっとの思いで、100リットル水槽の空間ができた。それならもう少し、と両者の挑戦は続き、水槽容量はなんと450リットルまで大きくなった。この水を混合してCAFSで泡を出すと、その最大泡吐出量は8000リットルほどになる。満足のいく実用域である。

徹底した省スペース化 だが安全面には手を抜かない

こうして日本初のクレーン、照明、フロントウインチ、ポンプ装置(CAFS)、水槽を持った救助工作車Ⅱ型が完成した。

ポンプ装置に加えて450リットル水槽の搭載スペースを確保するため、徹底した省スペース化が図られている。大きさのあるスプレッダーやカッター、ラムシリンダーといった油圧救助器具や削岩機を電動化。また照明装置をLED化したことで、照明用の発電装置は不要になった。

積載資器材も徹底的に見直した。同本部では10年以上前から都市型ロープレスキューを導入しており、同車を運用する隊員ももちろん熟達している。そこで、三つ打ちロープとそのための金具を降ろし、ザイルロープとその金具に絞った。

省スペース化とはいえ、隊員の安全面に手を抜くことは一切ない。赤色警光灯や周囲照明灯を増やし、車体に反射テープを巻いた。車体各部に手すりや支点を設けた。クレーンの横にあおりを設けず、車体後方での活動時隊員からの死角を減らした。さらに、キャビンにはモリタ製アドバンスモニタを設置。安全面には最大限、配慮している。

「多目的型」は日常災害でも

大災害を念頭に整備された 「多目的型」車両だが、それは日常災害での活用も想定されている。たとえば救急隊出動時などの人員の少ない体制下では、火災発生時にタンク車に代わって直近部署し、火災防ぎょにあたるとともに、人命救助にも対応するといったものだ。 

まさに消防人の夢とも言える、究極の「全部載せ」救助工作車が完成した。

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