拠点機能形成車 金沢市消防局

日本の消防車両

拠点機能形成車 金沢市消防局

金沢市消防局 中央消防署[石川県]

写真・文◎橋本政靖
Jレスキュー2016年3月号掲載記事

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都道府県隊規模の宿営を強力サポート

100名分の宿営資機材を積載

金沢市消防局は2015年(平成27年)3月30日、総務省消防庁から拠点機能形成車を貸与され、運用を開始した。同車は平成25年度から貸与が始まり、同年度には習志野市消防本部(千葉県)等に6台、2年目となる平成26年度には同本部と久慈広域連合消防本部(岩手県)、静岡市消防局(静岡県)、奈良県広域消防組合消防本部(奈良県)の4本部に配備された。(取材当時)

緊急消防援助隊で大規模災害に出場する場合、活動が数日以上にわたることもままある。しかし被災地では宿泊施設はもちろんのこと寝泊りする建物の確保さえ困難なので、消防は自分たちで宿営場所を確保したり作り上げなければならない。

これまでは、各消防本部が資機材搬送車等で搬送したテントや車内において仮眠・休息を取るという方法が主流だった。しかしこの方法では清水やトイレ、シャワースペースの確保が難しかった。また、車内に据付のいすやテーブル、調理設備やシャワー室を有した支援車Ⅰ型ならば、車内で充分な休息をとることができるが、各都道府県隊のような100名規模の隊員に対応できる宿営やシャワー、トイレ設備は有していなかった。今回配備された拠点機能形成車ならば、これらの問題を一挙に解決することができる。

同車には2つの役割があり、まず1つめは100名分の宿営用資機材を被災地まで積載・搬送する資機材搬送車としての活用法である。

車両の最大積載量は5500kg確保されており、カーゴラック10台まで各種資機材を収納して積載できる。積載されているのは主に100名分の宿営をサポートする資機材であり、大型エアーテント(34名用)3式、発動発電機(交流単相100V-2kVA型)3基、冷暖房機6基、簡易トイレ10基、組み立て式シャワー2基、調理器具2基、浄水器1基、照明器具一式、空気充填機1基、衛星通信機器一式(固定型1基、移動型2基)のほか寝袋、簡易ベッド、テーブル・いすが一式となっている。積載したカーゴラックは車内のラッシングレールにラッシングベルトを使って緊縛固定する。

また車両後部には最大昇降能力1000kgの大型パワーゲートを装備しているため、資機材を積み下ろす際の隊員の負担が軽減される。

拠点機能形成車 金沢市消防局
平成26年度の総務省消防庁貸与車両として金沢市消防局に配備された拠点機能形成車。
指揮本部機能も充実

2つめは、搬送してきた資機材を現地でおろした後、あいたスペースのボディを拡幅させることで指揮本部や支援本部として活用する方法だ。シャーシは10t級低床3軸2デフ車がベースとなっており、車体右側のみ長さ9.5m×幅2.1m分拡幅が可能。拡幅することで支援車I型より広い40㎡(約24畳)の室内空間が確保できる。支援車Ⅰ型とは床面の構造が異なり拡幅側の床面を折りたたみ展開構造にしているため、資機材を積載した状態でも拡幅することができる。資機材の積み下ろし作業と拡幅作業を同時進行で進められるため、現場到着後の展開作業が迅速に行えるのだ。

出入り口は車体右側の前後にデッキ付タイプが2カ所、左側に1カ所設けられており、拡幅していない状態でも左側から出入り可能。出入り口を複数設けることで、どのように活用する場合でも隊員の動線が確保される。

車内壁面には電源、ホワイトボード、情報収集用のテレビ、物品収納庫などが効率よく配置されている。もちろん状況に応じて机などを配置し、使用することも可能だ。車内天井部は前後に9.5m、左右に4.5mという柱などのない広大な飛ばし空間となるため、屋根に積雪や火山灰等が堆積すると耐荷重をオーバーし、破損する可能性がある。そのため必要に応じて車内中央部に支持棒を取り付けるほか、雪対策として平成26年度配備車両には新たに積雪監視装置と融雪装置が取り付けられている。積雪監視装置は外気温が設定した温度を下回ると警報を発する装置で、融雪装置は電気ヒーター内蔵の融雪シートを屋根上に貼り付けるタイプが採用されている。

また車内には専用の空調装置があるため、夏季の灼熱や冬季の極寒でも活動を持続できる。これらの装備の電源は車体下部にある交流単相100V/3.1kVA型ディーゼル式発動発電機4基で賄われる(車内用の機器および空調専用として2基、外部供給用2基)。

リア
拠点機能形成車 金沢市消防局
車体後部には資機材搬入・搬出用として大型観音扉の外側に大型パワーゲートが設けられている。
拠点機能形成車 金沢市消防局
資機材の積み下ろしはリアのパワーゲートを使って行う。
拠点機能形成車 金沢市消防局
各種資機材を積載したカーゴラック群。これらすべてを同車内にまとめて積載できる。
拠点機能形成車 金沢市消防局
左側が拠点機能形成車、右側が支援車Ⅰ型。ベースシャーシが異なるためキャブデザインも異なる。拠点機能形成車の全長は支援車Ⅰ型より約1m長い約12mで、規格上最大級の車体となっている。
拠点機能形成車 金沢市消防局
上部から見ると拡幅部分の大きさの違いがよくわかる。
拠点機能形成車 金沢市消防局
前面から見てみると、標準キャブに比べて窓ガラス上部が高く作られていることがよくわかる。
19道府県に出場する

金沢市消防局の拠点機能形成車は日本海側では初配備の車両であり(取材当時)、出場区域は北海道、青森、秋田、山形、新潟、富山、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の19道府県で、緊急消防援助隊石川大隊の後方支援小隊として活用される。同本部では、同車のほかに平成22年度に支援車Ⅰ型(支援車I型と拠点機能形成車の両車を配備しているのは全国でも同本部のみ)、平成24年度には無線中継車、燃料補給車を総務省消防庁から貸与配備されているため、各種救助系、ポンプ系、特殊車系車両などとあわせて様々な出場体制を組むことができる。

あらゆる環境での運用に適応! 耐荷重オーバー対策
拠点機能形成車 金沢市消防局
室内は柱のない広い飛ばし空間なので、屋根に積雪や火山灰等が堆積すると耐荷重をオーバーして破損する可能性がある。そのため必要とあらば車内中央部に支持棒を取り付ける。
拠点機能形成車 金沢市消防局
積雪監視装置制御装置。外気温を監視し設定の温度を下回ると警報を発する。

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右側面・左側面 他

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