
水難救助車
釜石大槌地区行政事務組合消防本部
Point3:サビに強い資機材積載部
車内前部の隊員室と後部の資機材積載部分の間にはスライド式の扉を設け、完全分離構造となっている。海難救助事案が多い同本部では、海水由来の塩分である塩化ナトリウムの塩素により車体等が強烈に腐食されるのが悩みだった。同車は腐食防止策として資機材積載庫の床面や壁に耐食性の高いステンレス鋼を採用し、床面4カ所に排水溝を設けて清水による水洗いを可能にした。他にも、腐食しやすいリア観音扉下部のバンパー付近には防錆塗装を施し、海水に対する耐性をアップさせている。


主な積載資機材
- ウエット/ドライスーツ
- アクアラング
- 予備ボンベ
- 各種個人装備類 など
Point4:隊員の復温に欠かせないシャワー室
これまで活動後の隊員や資機材の洗浄は水で簡単に行う程度だったが、清水の確保が困難な場合や、冬季の活動で冷え切った隊員への負担が大きいことが課題だった。同車は温水装置を搭載し、車内シャワー室および車両後部に屋外シャワーを設置した。これにより隊員が活動後ただちに温水で洗浄することが可能となった。


Point5:シートカバーも水難仕様
車両前部隊員乗車室のすべての座席には、シートカバー兼水難事故装着具であるFRS(Floating Rescue Seatcover)を装着。FRSはシートカバー内に発砲体が内包されており、津波などの緊急時には浮力体として、さらには防寒着や寝袋として使用できる。これは東日本大震災津波において、流された際に身近な車両内に浮力体があれば助かった命も多いという教訓のもとに、地域企業等が出資して設立された宮城県石巻市の株式会社I・F・D(石巻夢工房)が産学官で開発したものを導入した。


この車両には、多くの人の思いが詰まっている!
私たちが守る釜石市大槌町は、東日本大震災で沿岸部を中心に津波による甚大な被害を受け、多くの住民の命や財産が失われた。この地域には再びいつ来るともわからない津波への恐怖があり、日常的には沿岸部や中小河川での水難救助事案も発生する。今回製作した水難救助車は、用途を完全に水難救助専用として、とくに海難救助活動時の使い勝手を最重視して製作した。この車両の配備以前は、ボートを積載した資機材搬送車、水難救助資機材を積載したワンボックスバン、救助工作車の3台に隊員が分乗して出場していたので、不便だった。そこで、製作にあたっては、1台で自己完結できるだけの積載キャパを確保し、装備を充実させることにこだわった。
この車両は大阪府在住の女性(匿名)からの寄付で製作できた。寄贈者が被災地のために寄付をしたいと思ってくださったとき、緊急消防援助隊大阪府大隊が釜石市付近で活動したことが縁となった。その方の愛称が「とーこちゃん」であることから、車両は「とーこ号」、救助ボートは「とーこ丸」(登録船名)と名づけさせて頂いた。寄贈者、住民、消防職員、それぞれの思いや期待を反映させた一台に仕上げることができた。
この車両の装備担当
Profile

消防司令長 番田健児
釜石大槌地区行政事務組合消防本部
総務課長(取材当時)
Profile

消防司令 金野裕之
釜石消防署 副署長(取材当時)

【SPECIFICATIONS】
車名:トヨタ
通称名:コースタービッグバン
シャーシ型式:SKG-XZB56V
全長:7190mm
全幅:2050mm
全高:3410mm
ホイルベース:3935mm
最小回転半径:6.5m
車両総重量:6200kg
乗車定員:6名
原動機型式:N04C-VJ
総排気量:4009cc
駆動方式:4×2
配備年月日:平成28年4月1日
艤装メーカー:野口自動車・岩手総合商事