救助工作車II型 市川市消防局
市川消防局 西消防署[千葉県]
写真・文◎岩澤芳紘
Jレスキュー2021年9月号掲載記事
狭隘地域とCBRNEに対応したキャブバス型
機動化学隊の役割を担う 特別救助隊が運用する車両
令和2年4月1日、市川市消防局は、管内に東京外環自動車道が開通したことや、多種多様な災害に対応するため、西消防署で機動化学隊として運用していた部隊を特別救助隊に格上げし、同隊の出動範囲を拡大した。
市川市消防局の救助体制は、高度救助隊が1隊、特別救助隊が3隊の計4隊体制。西消防署は、平成17年より国内外で多発していたテロ災害からの教訓を踏まえ、機動化学中隊(CBRNE特殊災害対応)を配置しており、特別救助隊(旧・化学機動隊)、ポンプ隊、指揮隊、資材隊による中隊編成を残すため、西署特別救助隊はCBRNE対応に組み込まれる対応隊となった。
今回、西消防署に新規に配備された救助工作車は、特別救助隊発足からは1年遅れでの配備となるが、更新計画は、機動化学隊の特別救助隊への昇格、CBRNE災害対応のレスキュー隊運用を見越して平成31年度から進められていた。
仕様を検討するにあたり、運用隊からの要望・課題がいくつかあった。まず最初に、重装備で活動するCBRNE対応部隊であることから検討されたのが、キャブ内部のスペースを広くとれる「キャブバス型」のシャーシとすることであった。次の課題は車体のコンパクト化である。市川市は市内全体に狭隘路が多く、CD‐Ⅰクラスの消防車でも進入が厳しい箇所があるため、車両をできるだけ直近部署させるためには特に全長と全幅を抑えた車両でなければいけなかった。一方で、救助工作車としての機能に加えてCBRNE対応資機材の充実を図るために、資機材収納スペースの確保が求められた。
そこで、県内のキャブバス型の救助工作車を運用している消防本部を調べてみるとわずかに2台しかなく、いずれも全長が8mを超える大型車両であった。これでは狭隘路での取り回しはできない。SNS等で8・0m以下のキャブバス型の救助工作車を所有している消防本部を探したところ、いくつかヒットしたため、装備を担当した企画管理課の栗田義明消防司令はその消防本部に直接電話をかけ、図面や仕様書を提供してもらった。また主な艤装メーカーに依頼して、さまざまなキャブバス型の救助工作車の写真や資料を提供してもらい検討を進めた。
救助活動に専念できる仕様に
もう一つの大きな課題は、市川市消防局の特別救助隊の運用方式である。同消防局では北消防署と西消防署の特別救助隊が、ポンプ付の救助工作車を運用している。火災出場では現場到着時にホースを延長して、屋内進入により救助活動を1隊完結で行うという考え方で運用されている。しかし、CBRNE対応部隊として、CBRNE対応の資機材とポンプ車としての機能を両立することは困難である。そこで、西消防署の救助工作車だけはポンプ機能をなくすことにし、ホース延長等は警防隊が行い、特別救助隊は人命救助最優先で、必要な資機材を現場まで搬送し、救助活動に専念できるようにという方針に変更した。
救助工作車としての機能は、西消防署管内には東京外環自動車道があることから、交通救助に対応するための資機材を充実させることにした。現行車両との変更点は、クレーンを装備し、リアポンプを廃止し、そこに可搬式ウインチを積載したこと。高速道路での救助活動では、車両前部のウインチが使用できない場合は可搬式ウインチを活用することで交通救助事案から幅広い活動に対応できるようになった。
資機材の積載方法については、管内に狭隘路が多く、現場での取り出しスペースがあまりないことも考慮し、救助出動の初動で使用する電動ユニツール等の資機材はキャブ内に積載したほか、バスケット担架、バックボードなどの長物用に縦型収納庫を車両後部に設置した。また、キャブ内部の容積が増えた分、資機材の収納スペースが小さくなってしまうという懸念を払拭するため、右側後部シャッターの巻取り装置を車上部に移し、シャッター開口部を大きくし、容積も増やした。
CBRNE対応資機材の強化
既述の通り、新たに製作された本車両は、CBRNE災害等の特殊災害に出動する特別救助隊の運用する車両であることも踏まえた仕様となった。CBRNE災害は、個人装備、資機材の準備に時間と場所が必要となることから、広い車内で準備ができることが長所となることもキャブバス型の救助工作車が選ばれた理由の一つである。
特殊災害対応資機材にも今回は力を入れている。まず除染活動を行うテントは、乾式除染を行うエアーテントを装備した。また、検知測定用器具として、化学剤/有毒有害工業化学物質検知器LCD3・3を装備。前面の4つのボタンで簡単に操作が行える。そして消防では初めてとなる化学剤検知器、スタンドオフラマン化学物質検知装置PendarX10を導入した。この装置は、最大約90㎝離れた距離で蛍光性の高い物質、暗色物質、反応性の高い物質を含む有害化学物質の迅速な識別ができる。レーザーによる爆発や眼の損傷の危険性を大幅に減らし、安全性と正確性を高めている。
2台1組のペア運用
救助工作車の役割にとどまらず特殊災害対応車としての運用も兼ねていることから、資機材の量が増えるのは当然である。すべてを1台の車両に積載すれば、詰め込まれた資機材の判別にも手間取ってしまい、車両総重量もオーバーしてしまう。そこで新たな運用方式として考案されたのは救助工作車と資機材搬送車を2台1組で出動するペア運用である。こうすることで、使用頻度の高いものと低いものを2つの車両に振り分けることができ、現場で目視による資機材の取り出しが迅速かつ的確に行えるようになった。また、西消防署の車庫内のスペースが狭いことから、車両に資機材を積載しておくことで出動時間の短縮にも繋げることができた。このように問題点を一つずつ改善することで完成したのが、全長7・8m以下、全幅2・4m以下、高さ3・2m以内というコンパクトなキャブバス型の救助工作車である。
装備担当者から現場で活動する隊員への思いは、いかに迅速な出動体制を整え、一刻も早く現場へ急行し、到着と同時に一つでも無駄なアクションは減らし救助活動を行うことだ。
左側面
右側面
リア
キャブ内
車上部
取材にご対応いただいた方
【SPECIFICATIONS】
車名 日野
通称名 レンジャー
シャーシ形式 2KG-GX2AGBA
全長 7730㎜
全幅 2380㎜
全高 3150㎜
ホイルベース 3790㎜
最小回転半径 6500㎜
車両総重量 10985㎏
乗車定員 5名
原動機型式 A05C
総排気量 5123cc
駆動方式 4×4
ウインチ 大橋機産製MCW550RRT3S(トリプルリモコン仕様)
クレーン タダノZX294G
照明装置 湘南工作所製SVE-30CL-2402
配置年月日 令和3年3月26日
艤装メーカー モリタ