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消防車両の日常点検のポイント
救急車のメンテナンス
消防車両の使い方は独特のため、一般車両とは異なり、消耗する部品、故障が起こりやすい箇所に特徴が見られる。そこで、機関員のために消防車両の点検ポイント、メンテナンス方法を東京消防庁装備工場のプロがアドバイス。
写真◎伊藤久巳
Jレスキュー2018年3月号掲載記事
搬送中に不具合を起こすのは絶対にNG!の覚悟でメンテナンスする
出場件数が多い救急車は念入りに
機関員は「異音」に耳を傾けろ
高規格救急車はバンタイプの車両に防振架台、ストレッチャー、医療機器、大型バッテリーなど多くの資器材を積載するため、かなりの総重量になる。そのため、ベース車両は一般の車両よりもブレーキライニングのサイズを大きくし、オルタネータは寒冷地仕様よりも大きい150アンペアにするなど、強化したタイプで製作されている。しかし、出場件数が多いことからブレーキパッドの消耗などは激しく、定期的な点検は必須である。
走行時に機関員に気にしてほしいのは「異音」である。車両の小さな変化が異音や振動であり、それを見逃さないことが安全運行の第一歩である。
バッテリーの点検

救急車はラジエータにホコリが詰まりやすい
運用面での特徴は、活動中の車両のアイドリング時間が長いことである。とくに都市部では、高層ビルでの救護活動や搬送先医療機関の選定に時間を要する場合もあり、アイドリング時間が長くなる。すると、ラジエータファンが道路上(車体下)のホコリを巻き上げて吸い込み、一般の車両に比べてラジエータにホコリが詰まりやすい傾向にある。
ラジエータにホコリが詰まるとエンジンの冷却効果が悪くなり、オーバーヒートにつながる。この傾向は消防車両全体に言えることだが、とりわけ救急車は他の消防車と比較して出場件数が圧倒的に多く、日常的なメンテナンスを欠かすことができない箇所が数多くある。
ラジエータの点検


ちょっとした異変も見逃さないこと
救急車は傷病者を乗せる車両であり、その車両から異音がすれば、搬送されている傷病者も不安になる。それゆえに、東京消防庁装備工場の整備士は防振架台なども異音がしないかチェックし、ちょっとした異変も見逃さず丁寧に整備を行っている。また管轄地域を考慮し、特性に応じた整備を行っている。車両が配置された年式により、過去の故障傾向を考慮した予防整備を行い、署員が安心して活動できる車両に仕上げている。
東京消防庁の担当整備士がそこまで徹底して行っているのは、「救急搬送中に機械の不具合などで車両を止めるわけには絶対にいかない」というプロ意識を持って整備に取り組んでいるからだ。日常の点検整備では、救急車はとりわけ慎重に車両の不調に耳を傾け、早め早めの整備を心がけたい。
エアコンフィルターの掃除


防振架台の点検

スペアタイヤの固定確認

東京消防庁装備工場ではストレッチャーも整備する




ナットの締めすぎに注意!
「ナットは緩いのも締めすぎもよくないが、若い機関員は不安なため締めすぎてナットをだめにしてしまう傾向にある。今の若い人はかつてより車に興味を持っている人が減り、職場でしか車に乗らない人も多く、機械が得意でない職員も増えている。休日に自分の車を運転している人とそうでない人では、運転技術に雲泥の差が出る。プライベートでも運転していれば道を覚えるし、ちょっとした整備の知識も身につくのだから、是非日頃から車の運転や機械に興味を持ってもらいたい」(装備工場 中嶋主任)

石橋敬人
東京消防庁装備工場 二級自動車整備士/救急車等の整備担当(取材当時)