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CSRMは「観察と保温」
レスキュー隊員でもできる応急処置がある
【特定非営利活動法人全国救護活動研究会】
2019年(令和元年)11月28日、全国救護活動研究会の東京訓練場で第55回CSRMベーシックコースが開催された。
救助を極めると、救急的観点と技術が必ず必要になる。同研究会が長年訴えてきたその取り組みを紹介する。
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2020年5月号掲載記事
会発足から22年
これまで数々の研究を発表
特定非営利活動法人「全国救護活動研究会」は、日頃の救護活動に対する疑問や不安を皆で話し合うための場所として立ち上げられた組織で、全国の現役消防職員で構成される。代表を務めるのは自らも現役消防職員である八櫛徳二郎さん(取材当時)。平成10年の会発足からすでに20年以上が経過し、これまでの会員登録者は全都道府県に約3000名を数える。会員の職業は消防職員が中心だが、それ以外にも医師や看護師、警察官、海上保安庁職員、自衛隊員などさまざまな分野の人が参加している。研究会の活動を支えるスタッフも約60名を数えるまでになった。
研究会の目的は、会員の研究をさまざまな分野の人に見せ、意見をもらい、さらに研究を発展させていくというもの。以下がこれまでの主な研究、発表である。
- 「頭側高位での救助担架使用時の脳虚血危険」について、特別救助隊、救命センター医師などとも連携して研究を本格化(平成11年)
- 化学災害技術研究会で「NBC災害における要救助者用防毒マスクの必要性について」を発表(平成15年)
- NBC災害専門家会合において「NBC災害における多数傷者発生時の新救助法(ショートピックアップ)について」を発表(平成17年)
- 第10回日本臨床救急医学会で「救助担架設定角度による心肺停止の危険性について」を発表(平成19年)
- 第11回日本臨床救急医学会で「救急隊の精神的ストレスについて」を発表(平成21年)
- 第20回全国救急隊員シンポジウムで「CSRM訓練の必要性」を発表(平成24年)
兵庫県広域防災センターや全国各地の消防本部でも開催
研究会では現在、日常的な情報交換のほかに、大きく分けて4つ、(1)CSRM(狭隘空間における救急救助活動)、(2)EMS(医療から見た救助活動)、(3)NBC災害対応の研究、(4)CISM(惨事ストレス)について研究活動を行っている。
各地で震災の発生が懸念される近年、とりわけCSRMの研究に関する要望が多く、この研究と訓練会が活動の中心になっている。
CSRMについて、研究会では年間3会場、各2回、計6回のペースで訓練会を実施。全国の消防職員をはじめ、医師や看護師、警察官、海上保安庁職員、自衛隊員などを集めての訓練会を実施している。その第1回目が平成20年に兵庫県広域防災センターで開催された。
現在ではさらに専門家による裏づけもされたCSRMベーシックコースとして開催されている。震災を想定したがれき訓練施設を使用し、研究会がこれまで研究してきたCSRMの基本技術を広く救護活動関係者に対して伝えることが目的で、コースは、国内で培われてきた救助技術に加え、近年諸外国で確立されてきた救助技術を精査の上で盛り込み、日本の消防職員向けに調整した内容になっている。
CSRMは救助隊員を中心とした医療処置である
第55回となった今回のCSRMベーシックコースは、研究会の東京訓練所で実施された。ここは研究会がCSRM訓練を実施するために独自に建設した訓練施設で、がれき救助、狭隘空間での救助を効率的に行える。
コースは基本を学ぶ座学、基本的な技術を習得するスキルステーション、学んだことを身に付けるシナリオステーションが設定され、1日でCSRMの基本を学ぶことができる。
スキルステーションでは、CSRMの狭隘空間救助救急活動から一歩進めて、狭隘空間救助“医療”活動にしなければならない。救助隊はCSRMにすぐに移行することを前提としたCSR(狭隘空間救助活動)を行い、消防隊員個々が「救急処置は救助隊の任務だ」とはっきり認識する意識改革が図られた。
八櫛代表からは、「基本的な救急処置とは酸素投与や保温、体位管理、容態観察など。救命には保温が非常に重要である。狭隘空間に取り残され重症となる要救助者は低体温に陥っている可能性が高いので、保温をしっかりとすること」と念押しされる。
続いてステーションへと移る。約40名の参加者たちは班ごとに分かれ、4つの想定で基本的な技術を学ぶ。現場は指揮進入活動、狭隘空間活動、保温・保護、傷者観察。指揮進入活動は外部空間での指揮、進入準備、情報管理、安全管理などについて、狭隘空間活動は狭隘空間の過酷さを体験するとともにヘッドライトの重要性やスケッド取り扱い等、狭隘空間内やがれき上で有効な資機材の取り扱い方法について、保温・保護は防水シートなどによる要救助者の保温、保護要領について、傷者観察は要救助者へ全身接触や部分接触等の観察要領についてを訓練する。
そして、シナリオステーションは各想定の応用訓練だ。実際に生体の要救助者をがれきによる狭隘空間内に置き、指揮進入から人命検索、狭隘空間での要救助者の保温、保護、接触観察、スケッドストレッチャーによる救出などが訓練された。
スキルステーション【指揮進入活動】
進入という行動を中心として活動全体を統制する。要救助者生存の可能性や倒壊建物の安定度により捜索範囲を決定し、生命の兆候があって自隊で対応可能なら救出予定時間、安全度などにより救助的トリアージを行う。
スキルステーション【狭隘空間活動】
狭隘空間とは身動きがとれないくらいに狭い。ライトは非常に重要で、でこライト、予備ライト、傷病者用ライトが必要となる。
CSRのポイントは、多くが暗闇の中の活動であること、まっすぐに進めないこと、体幹部に近いポケットは使用困難であること、命綱が命取りになりかねないことなど。救出計画では臨機応変な活動が必要となる。
フルスケッドは安全確実だが、狭隘路通過にはハーフスケッドが有効。脊椎保護は非常に重要だが、脊椎損傷の疑いがなければ動いてもらうこともアリ。搬出時は「ロウソクのように消えかけた生命を救出する」ことを念頭に置いた医学的な慎重さが重要。搬送方法は、脳虚血による意識レベルの低下を防ぐため、脳と心臓の高さの体位を中心とした考え方と出血防止の観点から循環血液量を中心とした考え方がある。
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傷病者観察・保温・保護 他