Special
山岳救助での長距離搬送
久留米広域消防本部が負担軽減方法を検証
消防の山岳救助のなかで、隊員にかかる負担が最も大きいのが傷病者の搬送である。管内に最高標高802mの耳納連山を抱える久留米広域消防本部は、ロープレスキューを主とした救出訓練を重ねていたが、実災害での経験を振り返ると、一番の課題は「傷病者の長距離搬送」だった。そこで、久留米広域消防の高度救助隊は、バスケット担架での効率的な長距離搬送法を探ることにした。
写真・文◎久留米広域消防本部
Jレスキュー2017年5月号掲載記事
15分間継続可能な搬送法を探る
消防の山岳救助のなかで、隊員にかかる負担が最も大きいのが傷病者の搬送である。御嶽山噴火災害では、通常30分で下れる山道での傷病者搬送に1時間40分を要したという情報もある。約3倍の時間がかかることになる。
管内に最高標高802mの耳納連山を抱える久留米広域消防本部は、ロープレスキューを主とした救出訓練を重ねていたが、実災害での経験を振り返ると、一番の課題は「傷病者の長距離搬送」だった。
山間部では車両を直近部署できないため、徒歩による長距離搬送を強いられる。1人の隊員が傷病者をおんぶする背負い搬送かバスケット担架による手持ち搬送を行うことになるが、いずれの場合でも隊員にかかる負荷が高く5分程度の継続搬送も困難だ。そこで、久留米広域消防の高度救助隊は、最低でも15分は継続して搬送できるバスケット担架での効率的な長距離搬送法を探ることにした。
検証にあたっては、バスケット担架による搬送を3種類の方法(バスケット担架を手で搬送する「かかえ搬送」、担架の一部を引きずる「半引きずり搬送」、「完全引きずり搬送」)を実施し、荷重バランスと隊員の身体にかかる負担を比較。比較時の条件は次の4つとした。
(1)搬送隊員は4名以下(活動人員が限られているため)
(2)要救助者の体重は62kg
(3)搬送継続時間は目標15分
(4)搬送実施場所は平地
傷病者の搬送活動は、山岳救助では大きなウエイトを占める重要な活動である。今回検証した搬送方法は、15分以上の継続搬送が可能であり、スムーズな搬送に繋がると考えられる。しかしながら、長距離搬送はアップダウンや足場の悪い山道では搬送継続時間が短くなることが十分に予想され、隊員への負荷は、局所の痛みや疲労として確実に蓄積されるため、搬送途上の隊員配置のローテーションが必要である。
「かかえ搬送」について検証する
【検証1】フルボディハーネスを使用し、担架の荷重を体幹部で分散する
〇使用資器材 : フルボディハーネス(付属のランヤード含む)
〇搬送継続時間(15分目標) : 14分05秒 達成できず
〇荷重バランス : 頭部>足部
頭部保持隊員の肩、腰部の負担が大きい。足部保持隊員の負担は、小さい。結果、荷重バランスは、頭部側に偏りがあった。
【検証2】前後の隊員の荷重バランスを均等にするため、【検証1】よりも足部隊員の持ち手位置を1つ前へ変更した
〇使用資器材 : フルボディハーネス(付属のランヤード含む)
〇搬送継続時間(15分目標) : 15分00秒 達成
〇荷重バランス : 頭部≒足部
【検証1】に比べ、担架前後の荷重バランスは均等になり負荷の偏りはなくなった。しかし、フルボディハーネスでは隊員にかかる荷重が肩に集中し、肩の痛みに耐えながらの搬送となった。これを改善する必要があった。
【検証3】使用資器材をオープンスリングに変更し、体にかかる荷重の改善を検討した
〇使用資器材 : オープンスリング
〇搬送継続時間 (15分目標) : 18分30秒 まだ若干余裕あり
荷重は背部全体にかかり、肩の痛みは軽減され、局所的な負担は大きく軽減することができた。
次のページ:
「半引きずり搬送」、「完全引きずり搬送」と比較する