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丹波篠山市消防本部 消防署[兵庫県]
兵庫県中東部に位置する篠山市消防本部は、2019年5月に丹波篠山市消防本部へ名称を変更した。
時代とともに移り変わる街で、厳しい財政状況のなかでもモチベーションを切らさず努力する消防職員らがいる。
写真◎井上タケシ(Photo Ape)
Jレスキュー2019年3月号掲載記事
厳しい財政状況で街を守る少数精鋭たち
兵庫県中東部に位置する篠山市は、篠山城跡を中心として碁盤の目のように広がる城下町を中心とした、昔ながらの街並みが守られる都市だ。古くから京への交通の要衝として栄え、「小京都」と呼ばれ親しまれてきた篠山市は、平成の終わりとともに終わりを迎えた。2019年5月1日、「丹波篠山市」へ市名を改称したからだ。その一部局である篠山市消防本部も「丹波篠山市消防本部」へと生まれ変わった。
多紀郡4町の一部事務組合として構成されていた消防本部は、平成の大合併の先駆けとして4町が合併して篠山市が発足したことにより、平成11年、その業務を篠山市消防本部に引き継いだ。単独消防として現在の体制となってから19年が経ち、再び転換期が訪れた。
本部に併設される篠山市消防署は、昭和53年の消防本部設立から長らく唯一の消防署所であった。しかし市の中心・篠山城跡にほど近い立地上、377.59平方キロメートルという広大な管轄面積では、現場到着に時間を要していた。
そこで平成19、20年度に相次いで3出張所を設置。隔日でどちらか一方が開所する南出張所と東出張所、そして毎日9時~17時まで開所する西出張所だ。東出張所は単独の建物内にあるが西・南出張所は公共施設を間借りしており、各出張所が開所していない間はそれぞれの管轄地域を本署がカバーすることで、地域住民に「消防が地域にいる」安心感を与えるのに一役買っている。
こうした変則的な体制を敷かざるを得ないのは、篠山市が合併後に置かれた厳しい財政状況にある。平成20年には4万6000人いた人口は減少の一途をたどり、平成30年4月には4万2000人。すべての出張所を常設にするなら80名まで消防職員定数を拡充する必要があるが、財政面からそれも望めず、現在1本部1署3出張所、総勢65名の職員が2交代制で安心安全を守っている。
救命士教育に力を入れる
人口こそ減少傾向にあるとはいえ、救急需要は全国的な傾向と同じく年々増加している。そこで丹波篠山市消防本部が注力したのが、救急救命士の養成・教育だ。
市内には三次医療機関がなく、重症患者は片道1時間かけて阪神間までの搬送を余儀なくされるため、搬送中の救命処置がとりわけ重要になってくる。全職員65名のうち、救急救命士資格を持つ職員は半分の32名。毎年最低1名を救命士研修に出すことで、救急隊1隊に必ず救命士2名以上配置ができるようになってきている。さらに加古川医療センターとの症例検証会や兵庫県災害医療センターでのドクターカー同乗研修、さらに外部講師を招聘し、年3回講演会を開催するなどして、救急隊のレベルアップに努めている。
さらに、平成25年度には兵庫県立加古川医療センタードクターヘリが開設。当初は年あたり20件であった要請回数も、平成30年度には65件まで増えた。出動要請は通報内容から要請を行うキーワード方式(あるいは救急隊の現場判断)によって行われ、管内24のランデブーポイントでドッキングを行っている。篠山市を取り巻く救急医療体制は、ドクターヘリによって大きく変容した。
兼任隊で多様な災害に対応
管内にはハイキングにうってつけの山々が立ち並び、近隣から多くのハイカーが訪れるが、道迷いによる要請や谷底への滑落事案が発生する。また火災では野焼きを原因とした林野火災が多い。こうしたさまざまな事案に対して、篠山市消防本部では兼任隊で対応する。浅く広く、となってしまうことも多い兼任隊だが、隊員個人が自発的にJPTECコースや救助技術の講習会に参加し、研鑽を積むこともあるという。
さらに近年、全国で自然災害が頻発している。一年を通じて温暖な篠山市でも、平成30年7月豪雨では記録的な豪雨がもたらされた。いつ管内が被災地になるかわからないなか、篠山市消防本部ではマイクロバス型の災害支援車を平成29年度に配備した。これは平成28年熊本地震に緊急消防援助隊兵庫県隊として派遣され、後方支援の重要性を感じたためだ。先の西日本豪雨での派遣はなかったが、日常災害においても隊員らの休憩スペースなど、多目的に活用する等で、他都市の災害にも目を配り、教訓を活かして必要なものを配備する姿勢を貫いている。
変わっていく都市で
市名の改称にあたっては、まずは活動服の背文字を一新する。旧活動服にはなかった漢字での本部名表記を新たに追加し、より識別性を高めた。他の装備についても、順次変更していく予定だ。
平成26年、兵庫県が国家戦略特区に指定され、篠山市では歴史的建築物利用宿泊事業が進められることになった。これにより、古民家を利用した宿泊施設「NIPPONIA」が誕生し、市名改称とあいまって今後さらなる観光客の増加が期待される。実際に現在、観光客の救急搬送も増えてきているところだ。時代にあわせて変わっていく丹波篠山市。その守り人として、さらなる消防力の向上が期待される。
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