化学消防ポンプ自動車Ⅱ型 射水市消防本部
射水市消防本部 射水消防署[富山県]
Jレスキュー2018年7月号掲載記事
驚きの3500L水槽!!
ALPASが実現した夢の化学車Ⅱ型
条件は「同等品以上」
射水市消防本部では平成30年2月26日、射水消防署配備の化学消防ポンプ自動車Ⅱ型を更新した。
仕様作成を担当した射水市消防本部防災課・七軒康一消防司令(取材当時)が新たな化学車に求めた条件はただひとつ、「先代車両と同等品以上であること」。
平成7年に配備された先代車両は、日野レンジャー8t級シャーシをベースとした化学消防ポンプ自動車Ⅱ型。A-1級ポンプと3200リットル水槽、500リットル薬液槽を積載したパワフルな消火性能を持つ。強いて欠点をあげるなら、全長約7.7mと小回りがきかないことくらい。
22年ぶりの更新であっても先代車両に大きな不満はなく、何より小規模本部の射水消防では、兼任隊で化学車を運用する。隊員らの負担を少しでも軽くするために大幅な仕様変更は避けたかった。だからこそ「同等品以上」を掲げたのだが、これが意外に険しい道だった。
フロント
同等品はありえない?
消防車用シャーシは世代を経るごとに重量化し、艤装重量は圧迫されつつある。フルモデルチェンジ後の日野レンジャー8tシャーシは、先代車両が使っていたシャーシよりも約1720kg重量化していた。
だから先代車両と同じタンク容量は望めないし、コンパクト化なんてもってのほか。「同等品であることがこれほど難しいとは思わなかった」と七軒消防司令は語る。
だが射水消防にとって、タンク容量はゆずれなかった。化学車の役目は、管内臨海部にある中小規模化学工場での危険物火災対応だ。しかし先代車両はその大きなタンク容量を活かし、管内を走る北陸の大動脈・北陸自動車道での車両火災や内陸部での林野火災など、水利の乏しい現場での一線車両として出動してきた。さらには木造家屋が立ちならぶ駅前旧市街地の一般火災にも出動したことがあり、サイズダウンも捨てがたい。
各消防車両メーカーの仕様をくらべて検討されたのが、長野ポンプ社製「ALPASシステム」だ。オールアルミフレームでアルミポンプユニット、FRP水槽を積載したALPASなら、重いシャーシでも艤装部分の軽量化でおつりがくる。石川県金沢市に本社を置く長野ポンプは、かつて射水消防の別車両で艤装を担当した実績もあり、申し分ない。
仕様検討は七軒消防司令を中心とした消防本部防災課がとりまとめ、配備署の射水消防署だけでなく、各署の隊員に要望を聴きとった。平成28年10月から月1回以上のペースで話しあいを重ね、近隣消防本部からの情報収集や中間検査をふくめた3回の工場視察にも行き、仕様を固めていった。
そうして完成したのは、日野新型レンジャー7t級シャーシをベースにサイズダウンを実現し、軽化学車サイズとしては破格の3500リットル水槽を積載した化学消防ポンプ自動車Ⅱ型だ。
リア
隊員の負担軽減を図る
実現したのは軽量・小型化だけではない。A-2級アルミ製ポンプと通常より口径の大きい80㎜吸管をくみ合わせた最新式の消火ユニットを導入し、先代車両にひけをとらない消火性能を有する。
特筆すべきは新しく導入された、活動効率化のためのさまざまな装備品で、射水消防としては初めて、サイドプル式吸管と吸管自動巻き取り装置、電動油圧式ホースカー昇降装置を採用。先代車両で悩みの種だった給水中のタンク損傷リスクは、タンク停止弁を取りつけることで解決した。さらにポンプ操作盤にもPTOスイッチを設置し、いちいち車内に戻る手間を省いて迅速な活動が可能になった。
また同車は火災のみならず、ドクターヘリ着陸前の散水にも活躍する。待機時は放水銃に水ノズルを設定し、泡ノズルを放水銃すぐ横にある収納ボックスのふた裏に取りつけることですぐに取り替えられる。火災と救命、ふたつの用途にスムーズに対応できるのだ。
キャブ
資機材はすっきり収納
タンク容量が増えたにも関わらず車体はひと回り小さくなったことで収納スペースに不安があったが、「意外と余裕があった」と七軒消防司令は語る。
アルミフレームを使ったALPASは棚レイアウトの自由度が高く、仕切り棚はボルト締めされているだけなので、積載位置を変えることも容易だ。これを存分に活用し、二重巻ホースがぴったり収まるよう仕切り棚を調整することでデッドスペースの少ないレイアウトにできた。
それでも出てきてしまう、ホースカー裏や吸管巻き取り装置上部のデッドスペースには、抜け目なく収納スペースを配置。結果、必要資機材を載せつつもまだまだ積載余地のある資機材庫に仕上がった。
隊員への心遣いと技術の進歩が生んだ「同等品」を上回る新化学車。先代車両の魂を受けつぎ、これからも街を守っていく。
次のページ:
側面・ルーフ 他