指揮車 木更津市消防本部
木更津市消防本部 本署 [千葉県]
Jレスキュー2017年3月号掲載記事
オリジナルハイルーフ搭載 本部の“ほしい”を叶えるよくばりな一台
特徴的なルーフ形状
災害現場で現場指揮本部を立ち上げる際の要となる指揮車には、マイクロバス型や大型バス仕様、人員搬送に重点を置いたセダンベースなど様々なタイプがあるが、最近は救急車専用シャーシをベースにした指揮車を採用する消防本部が増えてきている。救急車専用シャーシは車高が高く室内空間が広いため、隊員が車内で活動しやすい。さらに四輪駆動設定があるため悪路走行にも強いが、通常のワンボックスカーに比べて値が張るという難点がある。
この流れに一石を投じるのが、今回紹介する木更津市消防本部の指揮車だ。同本部では平成23年4月に指揮隊を発足させて以来、人員搬送車として使用していた車両を指揮車に転用して運用していたが、もとが人員搬送車仕様のため、指揮隊が現場で活動するための資機材をすべて載せきることができず、職員が手作りで収納場所を作っていた。そのため車両の更新にあたっては収納力が高く、隊員が車内でスムーズに活動や準備できることをテーマに仕様を検討。加えて、花火大会などのイベント時の雑踏警備にも同車を運用できるよう、ルーフ上も活用できる仕様にしたかった。
これらの課題を解決するべく、同車は救急車専用シャーシではなくトヨタハイエース(スーパーロング)をベースとし、屋根には架装を担当したベルリングが製作した完全オリジナルハイルーフを採用。オリジナルハイルーフはルーフ後部が凹型になっており、この特徴的なルーフ形状により室内高2mを確保しつつ、ルーフ上は指揮台として作業できるという欲張りな仕様が実現した。
管内災害に配慮した室内空間
消防車や救急車と違い、指揮車は架装の自由度が高い車両だ。それゆえ各消防本部のこだわりや考え方、管内状況の違いが、レイアウトに現れやすい車種だとも言える。同本部の場合は収納スペースの確保を第一義としているため、限られたスペースをいかに有効活用できるかに焦点を当ててレイアウトを決めた。
まず後席前面のキャプテンシートまわりは、前方から右側後部までぐるりと大容量の収納棚を備えたテーブルを配しており、ここを作戦室として活用する。キャプテンシートは90度可動する回転型なので、左側面後方の横向きシートに座る後部隊員ともやりとりしやすい。横向きシートの正面壁面には現場の状況や活動内容を書き込むホワイトボードを設置。ホワイトボードはスライド式になっており、裏には隠し棚を設けてスペースを無駄なく活用している。
同本部ならではの仕様といえるのが作戦室最後尾部分で、壁面に空気呼吸器ブラケットであるスマートドックを設置している。同本部は管内に長大トンネル(東京湾アクアライン)を抱えており、そこで火災が発生したら当然指揮隊も現場へ出動する。長大トンネル内での活動は酸欠を起こす危険性があるので、活動隊だけでなく指揮隊も原則的に空気呼吸器を人数分搭載して現場へ向かう体制をとっている。先代車両にも空気呼吸器取り付け装置を1基設置していたが、それ以外の空気呼吸器はそれぞれのシートに直置きするなどばらばらだった。
新車両では最後尾に空気呼吸器をまとめることで隊員の動線が統一され、よりスムーズな出動が可能となった。現在は2名で指揮車を運用しているが、今後の職員増加や指揮隊の強化を予想し、スマートドックは3基分並べて設置している。
フロント&リア
オリジナル指揮台を搭載
リアの積載棚には発動発電機やトリアージシートなどを積載。さらに積載スペースを取りがちな指揮台はストレッチャー式でリアから取り出せるようにし、サイズを通常の3/4程度にまでコンパクト化することで収納する床面を極力低く抑え、室内の圧迫感を軽減している。
指揮台の盤面は完全オリジナル仕様で、半分がホワイトボード、もう半分が盤面にLEDを内蔵したLED卓となっている。LED卓にはバッテリーを搭載しており、夜間照明のない現場で、電源が取れなかった場合でもゆうに3時間程度は使用できる。
夜間活動時も安心! ハイブリッド型指揮台
同本部が採用した指揮台。全体的に小ぶりなうえ、盤面右側が一般的なホワイトボード、左側がLEDを埋め込んだLED卓となっているため夜間活動時も安心。
視認性もgood
細かな部分にまでこだわって製作されている同車だが、こだわりは車外にまでおよぶ。車両デザインはとにかく目立たせることを念頭に置き、フロントとリアに太めのホワイトライン、その上から赤字で119の文字を入れた。照明類にはパトリンクビークルを採用し、周囲への注意喚起や視認性の向上を狙っている。
トレンドの救急車ベースではなくあえてハイエースをベースとし、本部が必要とする仕様を余すことなく取り入れることに成功した同車。他本部と被らない特徴的なフォルムゆえに、県内広域応援隊などで出動した際でもすぐに判別できるという、副次的なメリットも期待できそうだ。
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