化学消防ポンプ自動車Ⅱ型 松本広域消防局

日本の消防車両

化学消防ポンプ自動車Ⅱ型 松本広域消防局

松本広域消防局 広丘消防署 [長野県]

写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2019年5月号 Vol.99掲載記事

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普段使いも長距離移動も「使いやすい!」が詰まった車両
2年連続の更新配備2台目の化学車

松本広域消防局は県央部に位置する松本市、塩尻市、安曇野市、麻績村、生坂村、山形村、朝日村、筑北村の8市村で構成される広域消防。北アルプス連峰や美ヶ原高原など美しい山々に囲まれ、空気は乾燥して澄みわたる内陸性気候が特徴で、大きな災害が比較的少ない地域である。平成5年4月に広域消防の先駆けとして発足し、1消防本部12消防署4出張所で、松本地域に住む約43万人の安心安全を実現してきた。

同局では、広丘消防署と芳川消防署神林出張所の2署所に化学消防ポンプ自動車を配備している。2署所は信州まつもと空港を挟む形で空港の消防力を補完し、さらに日本オイルターミナル松本営業所や工場団地などの施設も考慮した配置だ。

この芳川消防署神林出張所の化学車が平成29年度に更新されており、2年連続の更新配備となった同車は、隊員の混乱がないように配慮し、基本的に前年配備の化学車の仕様を踏襲。艤装を担当したのも前年度と同じく日本ドライケミカルだ。緊急消防援助隊登録車両として仕様を作成し、平成30年2月4日、運用を開始した。

新たな化学車が配備された広丘消防署は、塩尻市北端の国道19号線沿いに位置し、化学車のほかにポンプ車と救急車、指揮広報車が配備されている。1当務に救急隊3名、消防隊4名の計7名が勤務し、配備後2カ月で、すでに4回の火災出動があった。乾燥が続いていることが原因のひとつと考えられるが、あぜ焼きなどの山林火災が多い季節でもある。

ただし、管内東部に連なる2000メートル級の山間地では山菜やキノコ狩りの迷い人も多い。稜線まで林道が走っているが、狭隘路が多く大型の化学車でアクセスできない場所も多い。そういう時はあらかじめポンプ車に乗り換えて出動する。

最新液晶モニタで使い勝手のいい車両に

車両ポンプ部の左右には、コック開閉や圧力、流量の表示に加え、メンテナンスや使い方まで系統的に表示できる視認性の高い日本ドライケミカル製の液晶モニターを搭載している。同モニターは近年、他艤装メーカーの消防車両にも採用されており、オプション設定によって使い勝手の良い操作盤にできることが魅力だ。

操作はボタン式で「はい」「いいえ」「戻る」などの表示に沿って行い、手袋をはめていても確実に操作できるのが特徴だ。またポンプの回転を電気的に自動制御する電子スロットル装置を搭載し、誰でも確実に操作ができることを基本に据え、オプションなども決定していった。

更新にあたっては、職員に聞き取り調査を実施して改良点の大枠を決め、細部はメーカーと協議しながら詰めていった。具体的には活動終了後、濡れた防火衣をかけられるバーとポンプ室上部にS字フックを取り付けた。またポンプ室は明るいシルバー塗装にすることで、限られたLED照明でも見えやすさを確保している。さらに再帰性に富んだ反射材を前面、側面、後面に貼り付け、夜間の視認性を高めている。

照明は「テクライト」採用

シャーシは排ガス規制適合の最新型のため、ポンプ室下のスカートボックス内は燃料タンクや排ガス浄化装置によって占められることになった。そのため双方向サイドプル式吸管巻取り装置を採用し、積載スペースを確保。資機材庫はオールシャッターとし、積載しきれなかった資機材はアルミボックス内に入れてルーフに逃し、積載量を最大限確保している。

照明装置と放水銃、大小のアルミボックス、予備吸管を装備するルーフ上で特筆すべきは、照明装置にバッテリー駆動式の「テクライト」を装備していることだ。バッテリー駆動式のテクライトは、エンジンからのパワーをすべてポンプに回すことができ、強力な放水が可能となる。

右ポンプ室には泡消火薬剤を混合するための吸液口があり、左側面は展開式扉収納、右側面は一般的な棚収納になっている。後部は手動式ホースカーとはしご昇降装置を収納。ルーフステージにも縞鋼鈑を張り、松本広域消防局広丘消防署化学車を表す「松本広C」の対空表示を貼付した。

乗りやすさにもひと工夫

同車は緊急消防援助隊登録車両であるため、長距離移動でかかる隊員への負担も考慮されている。まず、隊長用の空気呼吸器はセンターコンソール後方にスタンド式収納を艤装し、立てて収納している。ボストロムシートにすれば迅速な出動が可能になるが、長距離移動の際には疲労の原因になりかねないという配慮だ。なお、このままでは隊長席からの後方確認がしづらくなるため、左サイドミラー最上部にはミラーを追加した。さらに機関員の運転しやすさを考慮し、マニュアルではなくオートマチック仕様にしている。

普段使いだけでなく、緊急消防援助隊での出動も見据え、使いやすいように設計・作成された車両となった。

消防車
いすゞ・フォワードをベースシャーシとした化学消防ポンプ自動車Ⅱ型。フロントバンパー下部にブラックの高輝度反射テープを貼り、夜間の視認性を高めている。
消防車
後部とサイド部分にはレッドの高輝度反射テープが貼られている。

日本ドライケミカル製 最新ポンプ操作盤

操作盤
コックの開閉、圧力、流量からメンテナンスや使い方まで系統的に表示できる視認性の高い液晶モニタ。
操作盤
操作はボタン式なので、グローブを填めた手でも確実に操作ができる。
操作盤
メニューは分かりやすく、「はい」「いいえ」「戻る」など液晶表示に該当するボタンを操作する。
操作盤
作動している流体の流れはグリーンで表示。写真は吸水口に吸管を接続した状態。
操作盤
自動揚水、自動調圧、上限回転設定などの取扱説明も表示できる。
操作盤
「自動揚水が作動しない」や「放水性能が不十分」など故障と対策までも液晶モニターに表示してくれる。
操作盤
「はい」「いいえ」で答えていくと、対策が表示される。

キャブ

消防車
セミハイルーフ化により拡大された室内空間。緊急消防援助隊出動時の長距離移動を考慮し、隊長席の空気呼吸器はセンターコンソール後方にスタンド式で配置している。
消防車
隊長席からも後方確認ができるよう左サイドミラー上部へミラーを増設。
消防車
四輪駆動で車高が高く、各ステップには縞鋼鈑で乗り込む際のキズを防いでいる。
消防車
後席一席を潰し、AEDを搭載するスペースに。ファーストアタックとしての機能を向上させている。

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