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映画『ノートルダム 炎の大聖堂』レビュー、実際の火災映像も使用した大迫力の作品

4月7日から映画「ノートルダム 炎の大聖堂」が公開される。この映画は、2019年4月15日に世界遺産のノートルダム大聖堂で発生した実際の火災を題材にした作品だ。作品内では実際の火災の映像を使用しているほか、死者を出さずに鎮火した様子が描かれている。大聖堂の崩壊が迫る中で、建物や収蔵されている貴重な文化財、そしてもちろん自分たちの命も諦めずに消火活動にあたった消防士たちの活躍の物語を、本誌でおなじみ東京消防庁の元防災部長の伊藤克巳氏が鑑賞した。伊藤氏の視点で作品の見どころを紹介しよう。

文◎伊藤克巳

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ノートルダム 炎の大聖堂
映画「ノートルダム 炎の大聖堂」の作品ポスター。
避難状況や消防活動を忠実に再現している

私は消防人なので、消防関係の映画やテレビドラマは必ず見るのだが、刑事物と比べるとその数が少なく寂しい思いを抱いていた。邦画では俳優の伊藤英明さんが主演した「252 生存者あり」がある。この作品はハイパーレスキューの活躍を描いており、私もこの映画の制作に関係したこともあって大変興奮したものだ。そんな折に今回の映画「ノートルダム 炎の大聖堂」が公開されると知り、3回拝見させていただいた。

世界遺産のノートルダム大聖堂は、実際に2019年に火災があり、尖塔が燃え落ちた。この映画「ノートルダム 炎の大聖堂」は空高く燃え上がる大聖堂の姿と市民の祈り、避難状況や消防活動を忠実に再現したところがすごい。“消防人”としての本作の見どころを挙げていく。

冒頭には出火した経緯を暗に示す場面が複数あり、いずれも火災原因となり得る可能性があるため一気に興味を惹かれた。出火時の自動火災警報器の発報とその対応は実にリアルだ。自火報を受信した新米の警備員はどうしたらよいかわからず、上司に連絡する。そのときに上司は「数年前から壊れている。停止ボタンを押せ」と言うのだ。日本でもこのような事例は、川治プリンスホテル火災など多数あり、いずれも大惨事を招いている。

やがてノートルダム大聖堂の屋根部分から黒煙が上がり、消防署からポンプ隊が出動した。このときのポンプ車が走行するシーンでは、火災現場でよく経験する一般車両や通行人と一触即発の状況が驚くほど良く描かれている。

撤退の決断をした印象的な場面

作品内での消防隊の活動だが、消防隊が到着した時に在館者は全員外に避難しており、消防の役割は貴重な文化財をどのように守るかに焦点が当てられた。ノートルダム大聖堂は建物自体も大変貴重だが、宝物庫には重要な聖蹟物が保管されている。その聖蹟物を確保して安全に移動させるところは見どころだ。

火点を確認するために北の翼廊をあがるも、屋根の鉛が溶けてヘルメットに滴り落ちてくるような状況だ。鉛は融点が327.5℃なので、確かに大量の鉛加工がなされていれば火災の熱で映画のようになるのだろうし、送水ホースも穴が開いてしまうだろう。大聖堂の延焼状況では実際の映像を使用しており、その緊迫感は圧巻である。そのあと指揮車と准将が到着し指揮命令系統を明確にし、長距離送水や自走の放水ロボット「コロッサス」、消防艇、また46メートル級はしご車を応援要請している。

北の大鐘楼を守る場面では、准将がコロッサスでは火元まで放水が届かず内部からの消火は不可能と判断して撤退を命じる。私も現職時代撤退を何回か命じたことがあったが、要救助者がいるならば撤退は考えないが、隊員の安全を守るための撤退は忸怩たる思いになるものだ。その辺が良く表現されていて涙を誘われた。

実在の人物から日本の消防へ送られてきた手紙

クライマックスでは、建物の崩壊の危険性が増したため、消火活動に対する方針を巡って少将がエマニュエル・マクロン大統領に対して苦言を呈する場面が出てくる。このとき、小隊長の一人がある戦術を進言し、決死の消防活動が始まる。この辺は東日本大震災の福島原発への消防の出場経過を思い出す。鎮火報告の場面では、涙もろい私はここでも我慢ができなかった。そのとき、大聖堂の外でフランス国民の大聖堂への想いが分かるような場面が映し出される。

この火災での死傷者はゼロ。1300点の文化財が市庁舎に移された。なお、沖縄の至宝である首里城が全焼したときに、この映画に出てくるガレット少将から那覇市消防局へ1通の手紙が送られている。「首里城を失った悲しみを共有し消防隊員の勇気と献身をたたえる」というメッセージが書かれていた。

“消防に国境なし、消防に争いなし”

この言葉を再度痛感した出来事だった。

※注
パリ消防局はフランス軍消防工兵部隊に所属しており、階級の少将は消防局長、准将は警防部長、大佐は消防署長、大尉は大隊長クラスにあたる。

4月7日から映画「ノートルダム 炎の大聖堂」が公開される。この映画は、2019年4月15日に世界遺産のノートルダム大聖堂で発生した実際の火災を題材にした作品だ。作品内では実際の火災の映像を使用しているほか、死者を出さずに鎮火した様子が描かれている。大聖堂の崩壊が迫る中で、建物や収蔵されている貴重な文化財、そしてもちろん自分たちの命も諦めずに消火活動にあたった消防士たちの活躍の物語を、本誌でおなじみ東京消防庁の元防災部長の伊藤克巳氏が鑑賞した。伊藤氏の視点で作品の見どころを紹介しよう。
文◎伊藤克巳

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