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ロープレスキューの種をまく GRIMPDAY2022想定解説(その2)
世界大会GRIMPDAY2022の想定と解説②
文◎GRIMP JAPAN
Jレスキュー2023年3月号掲載記事
前回の記事はコチラ
前回は、GRIMPDAY 2022初日の2想定について紹介しましたが、今回は同じ日に実施した残りの2想定について紹介していきたいと思います。
このうち1つの想定については、2022年の年末に日本でも全く同じと言えるような実災害が発生しました。アンカーの条件や発生時間等には違いもありますが、改めて実災害に近い状況で訓練しておくこと、そして経験しておくことの重要性を感じました。
同じことを行うにしても、経験していない高さや暗さは活動に大きな影響を与えます。「訓練でできないことは現場でできない」と言いますが、「訓練していない高さや環境で訓練塔と同じことはできない」とも言えるのではないでしょうか。
これまで、大会等を通じて、地上100mの吊り橋の上や地上77mのタワー、夜間や照明の少ない屋内など、様々な場所での活動を経験してきました。それらは全ていつ起こるかもしれない現場に対応するための大きな経験値となると思います。
GRIMPDAYで行われた想定を紹介することで、実際に経験していなくても、皆さんの今後の活動の参考にしていただければ幸いです。
Day1 ワリビ・アミューズメントパーク (遊園地)第3想定:Dalton Terror
想定
地上77mのタワーから一気にフリーフォールする「ダルトンテラー」という名の遊具が途中(50m付近)で停止した。その座席に取り残された要救助者を地上まで救出する想定。要救助者は意識があり、ハーネスを着装しているという状況で担架使用は必須ではない。
アンカー(支点)はタワー上部(77m地点)の支柱と地上に配置されている車両のみ使用可能。
77m地点から地上まで2本のロープが事前設定されており、このロープは救助者のアクセス(登はん、降下)には使用できるが、要救助者の救出には使用不可。
全隊員と資機材を指定された位置に搬送して終了となるF5(Finish5)想定。
活動解説
要救助者は意識ありだったため担架不要で、隊員が進入し確保後に2名で降下するロープアクセスレスキューを選択。事前設定のロープは救助活動には使用不可だったため、新たな降下ロープを2本設定することとした。
先行してタワー上部(77m地点)まで登はんするR2が2本のロープを携行することは負担が大きいため、200mのメッセンジャーロープ(5mm)の中間付近にプーリーを取り付けて携行し、タワー上部まで登はんして上部アンカーにプーリーを設定。地上隊員はメッセンジャーロープの先端に懸垂ロープを取り付け上部まで引き上げた。
同時に、R1もR2に続いて要救助者の位置(50m付近)まで登はんし、要救助者に接触し状況を観察する。R2が引き上げられた懸垂ロープを上部アンカーに設定完了後、R1はロープtoロープで新たに設定した懸垂ロープに乗り移り、要救助者を自身のハーネスと結着して2名で降下し救出を完了した。
救出完了後、R2は逆の手順で設定した懸垂ロープを撤収し、事前設定のロープで降下。地上隊員は並行して撤収活動に入っており、R2が地上に到着して指定された位置に戻り、想定終了となった。
活動時間は活動指示を含めて29分だった。
活動のポイント
77mという日頃はあまり経験することができない高さにアクセスするフィジカル要素も備えたシナリオであった。私たち(JW9PM)はこれまでにも大会や訓練において50mや100mといった高さを経験していたが、経験のない高さというのは同じ活動をする場合でも高さによる影響や心理的負荷など未知の負荷がかかってくるものである。さらに、今回は活動中に激しい雨と強い風というハザードもあった。この気象のハザードは私たちも未経験なものであり、今後の実災害での対応にも活かせる貴重な経験となった。
想定付与では、下部の車両をアンカーとして使用してよいと指示があったため、この部分で救出ロープをコントロールして要救助者を降下させているチームもあった。しかし、私たちはこうした条件付与に惑わされず、ロープアクセスのみで救出するという選択をしたことで、シンプルでスピーディな活動ができた。チームレスキューを行う前に個々のロープアクセス技術を習得しておくことで、チームレスキュー自体をシンプルでスピーディなものにするということを実感した想定でもあった。
高さの影響については、R1が登はんしたロープから救出用のロープに乗り移った際に、ロープの伸びにより大きく位置が下がった。こうした伸びの大きさは100m登はん時などで経験があったが、ロープtoロープにおいてもこの伸びを考慮した活動が必要であった。
風の影響については、横風により要救助者位置に留まることも困難な状況であったため、座席の枠にランヤードを取り付け、身体を保持するという手間が増えた。
ロープの設定については、メッセンジャーラインを携行することで登はん者の負担を軽減したことが非常に有効だった。救助活動では目的地まで辿り着くことが目的ではなく、そこから活動を開始し、要救助者を救出することが真の目的である。そのためにも事前の準備の負担を軽減することはとても重要なことである。
コントローラー&オブザーバーからのフィードバック
非常にスピーディな活動だった。これまで実施したチームの中では2番目のタイムということだった。
先行して登はんした隊員(R2)が、要救助者に十分な観察を行わずに通過したとのことで指摘を受けた。こうした状況では、声かけのみを行ったのち、その場でもう少し待つよう指示して通過することが多い。この点については実現場というより大会という場での対応となってしまっている点もあり、より丁寧な要救助者の状況観察、要救助者の不安等を考慮した対応を行ってもよかったと反省した。
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Day1 ワリビ・アミューズメントパーク 第4想定:Vampire