
化学消防ポンプ自動車Ⅲ型
延岡市消防本部
延岡市消防本部 延岡市消防署[宮崎県]
写真◎中井俊治
Jレスキュー2019年3月号掲載記事
性能は落とさず、車体はコンパクトに!
先代ははしご車専用シャーシ
延岡市消防本部は延岡市消防署の化学消防ポンプ自動車Ⅲ型を21年ぶりに更新した。
延岡市消防署の先代の化学車は、モリタのはしご専用シャーシ「MH」をベースにした非常に珍しい車両であった。キャブとボディが完全に一体化したフォルムの4WS低床シャーシだったため、車内は広々としている反面、後輪2軸の3軸シャーシは化学車にしては車長が長すぎ、運用面で不便を感じていた。そのため、更新時の条件は『性能は落とさず、車体をコンパクトにすること』であった。
車両を運用する石本三由記消防課長補佐(取材当時)は、「非現実的な要望を出しても仕方ない。また先代導入時から20年以上経過しているので、進化した技術力を把握することで、延岡市に必要な車両が見えてくる」と検討時期の近年に化学車を配備した本部に問い合わせ、仕様書を取り寄せるなどして最新化学車の仕様を救助隊全員で研究した。その上で、最低条件はA-2級ポンプ以上、消火薬剤の混合方式は比例圧送方式とし、国内企業が対応できる仕様書を作成。入札の結果、日本ドライケミカルが艤装を担うことになった。

放水能力が大幅アップ
シャーシには、日野の8t級シャーシを採用。この結果、車体全長は8mとなり、先代の10.25mと比較すると2m近く短くなり、活動範囲が格段に広がった。ポンプはA-2級だが、日本ドライケミカル社のポンプはA-1級に近い能力を有している。延岡市では平成14年に大規模な化学工場火災が発生し、2日間にわたって応戦した経験がある。その際にポンプ性能の重要性を痛感したという石本消防課長補佐は、「先代車両も十分なポンプ性能を有していたから放水を続けられた。放水銃がどんなに高性能でも、ポンプの吸水・送水能力が十分でなければ放水を続けることはできない」という。その点、新車両のポンプは本部の要望を満たす性能を有していた。混合装置は様々な放水圧に対応し、良質な混合泡が形成できる比例圧送方式とした。
車上には、有線リモコンで昇降、回転、俯仰可能なヨネ製ハリケーンRC放水銃を積載し、最大で毎分3100Lの放水、泡放射が可能だ。このハリケーンRCは、1200L、1800L、2400L、3000L、3600L、4800Lと放水量を6段階で調整できる機能を有している。この機能は、水量が多い時よりも、むしろ少ない時に放水量を絞ることで飛距離を伸ばし、泡原液の節約にも役立つ。また化学車の場合、放水銃を旋回させ角度設定を行うなど隊員が車上で活動するシチュエーションが想定されるため、当初、積載を検討していた三連はしごは載せず、積載物を最小限にとどめ、車上デッキの活動スペースをできるだけ広くした。
放水銃は車上の他に可搬式も積載。化学車が入れない現場では、この可搬式放水銃を設定することで、火源にむけた連続放水が可能になる。
ポンプや混合装置の操作盤は、ドライケミカル社の新型12インチ液晶モニター操作盤を搭載。市販車両では初採用となる操作盤で、薬剤混合操作はボタン一つで自動的に計算される。スロットル装置も自動計算で、バルブも自動で開閉されるので、安全性能が飛躍的に向上した。
併せて、資機材庫のシャッターはバー式として利便性が向上。全シャッターには開閉センサーが付いたことでキャブ内からでも閉め忘れが確認でき、安全性も向上している。資機材庫は重量物を下側に配置し、スライド式ラックも使用。棚は可動式にしたことで、運用状況に応じて高さを調整できる。
キャブはあえてハイルーフにせず標準キャブにしている。というのも、工場施設内には様々なパイプラインが道路上部を横断しており、走行車両に高さ制限が設けられている道がいくつもあるため、車高は極力抑えたかったからだ。それでも、車内上部に収納ラックを設置するスペースは確保できている。
この他、ステップ部分の水抜きや、すのこの設置など、中間検査後でも消防本部のさまざまな要望が反映された車両は、最前線で活躍できる車両として、大満足の一台となった。
フロント

リア


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